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ページ目次
胡蝶蘭の分類と問題点
花粉魂4組と2組
Amabilis グループ
Amabilisグループの異質な種
Cornu-cerviグループ
Lueddemannianaグループ
P. fasciata/P. reichenbachiana
P. lueddemanniana/P. delicata
P. violacea/P. mentawai
P. sumatrana/P. zebrina
P. gigantea グループ
P. equestris
 Linkのないアイテムは準備中です

胡蝶蘭の分類と問題点

 胡蝶蘭とされる種の分類については、今日DNA分析による研究が行われ、多くの情報が蓄積されつつありますが、それぞれの提案があり確定している訳ではありません。E.A. Christensonによる胡蝶蘭を5亜属に分類し、さらにその内の2亜属を4節に分けて62種とした分類法が現在最もよく参照されます。クロロプラストDNA、リボゾームDNAなどの分子系統解析は2000年に入ってからの研究であり、またサンプルの数や地域性にも制約があるようで、それだけ胡蝶蘭属はまだいくつかの点で未解決な問題を含んでいるように思われます。学術的な分類はさらなる研究に期待するとして、栽培者から見て同種のなかで地域性や変種、あるいは類似する種が入荷した場合、同定が困難な機会がしばしば訪れます。また国内のネットカタログにも原種とされながらも交配種ではないかと疑われる株が稀に見受けられます。海外からの購入においてのミスラベルや、実生株では経験がありませんが、野生種から育てた種は、それまでの形態とは僅かに異なる株が多く含まれます。このように専門家(業者)から見ても原種の同定には難しい実態があります。このページではこれまでの分類について形態的特徴の視点からいくつかの問題点を整理してみます。

 栽培者が視覚的に胡蝶蘭を分類する判断材料は主に下記のそれぞれの特徴があげられます。

  1. 花被片形状と色
  2. カルス形状
  3. 交配後の花被片の変化(縮れて枯れるか、さく果色で留まるか)
  4. 香り
  5. 葉形状および色・テクスチャ
  6. 花茎形状(軸形状、色、長さ)

 上記のなかで、花被片形状や色合いは誰もが外観上認識できるもので、特に原種はそれぞれ強い個性があって、そのほとんどは花被片によって種別が可能です。しかし一度栽培者が変種や近縁種を収集しようとすると、同じグループ(亜属や節)の中にはそれぞれ地域差や個体差もあって花被片形状や色だけでは種を同定するのは困難な場合が生じます。また1品種を複数持つと、なぜこの1株は他と色、形、匂い等、違うのだろうという経験をもつことがあります。さらに人工的(作為的に)に交配された雑種が、変種や新種として出回ることもあり得ます。この問題に接すると、現在の胡蝶蘭のいくつかの種の進化と、分類の問題点などと関わらざるを得なくなります。

 一般に胡蝶蘭は花粉魂が2組のものと4組のものがあり、4組は中国南部、インド、インドシナに、2組はマレーシア、インドネシア、フィリピンに広く分布します。例外として4組グループのP.deliciosaが後者の領域にも分布し、一方、2組グループのP. cornu-cervi, P. sumatrana, P.kunstleriが前者の領域に分布します。

図1 花粉魂4組および2組タイプの分布

 また近年ではDNA分析による種の進化系統樹や、種同士の遺伝距離などが解明されつつあり、かなり種相互の関係が明らかになってきました。しかし多数の変種を含む類似種をもつ栽培者にとっては、これまでの研究に使用されたサンプル(個体差、地域差、変種、匂い差などそれぞれを考慮した)に不十分さも感じます。

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花粉魂4組と2組の種について

 4組グループであるAphyllae(wilsonii, braceana, minus, hainanensis, etc.), Proboscidioies(lowii), Parishianae(appendiculata, gibbosa, lobbii, parishii)亜属やDeliciosae(chibae, deliciosa, mysorensis)節の多くは、これまでKingidiumという別属に分類されていました。いずれも花は小型で、落葉性あるいは花被片・リップ形状に特異性をもち、熱帯雨林帯に生息する種とは花粉魂を含めかなり形態が異なるためです。これらが胡蝶蘭属に組み入れられたのは近年になってからです。このAphyllae, Probosciioies , Parishianae, deliciosae亜属をPhalenopsis属とすることによって、DNA分析による進化系統樹として見た場合、Aphyllaeがもっとも古く位置ずけられ、Aphyllae, Proboscidioies, Parishianae亜属およびDeliciosae節の順で進化したとされています。この結果Aphyllae亜属を胡蝶蘭の起源とし、今日の熱帯雨林帯に広く分布している多くの種がAphyllaeの生息地である現在のヒマラヤ地方から南下しながら進化したとする学説があります。

 図2で左2枚の写真はDeliciosae節のP. deliciosaと、P. chibaeの花粉魂です。4個の花粉魂が確認できますが、やや扁平な花粉魂が2枚、2組で構成されています。一方右写真2枚はPhalaenopsis 亜属Phalaenopsis節のP. amabilisと、Polychilos亜属Amboinenses節のP. violaceaです。これらはくびれがありますが花粉魂が1個づつ2組で構成されています。


P.deliciosa         P. chibae

P. amabilis           P. violacea

図2 4組および2組花粉魂

  図3はAphyllae亜属のP. wilsonii, P. haiananensis, P. minusです。写真から分かるように右端のP. minusの様態は左の2種とは花被片やリップ形状が大きく異なります。なぜこのように異なる形態を持つ種が人工的に作出された訳でもなく、それぞれが自然界の進化の中にあって同じ亜属となっているのかは疑問です。DNA分析ではP. minusの遺伝子距離は他の2種とはやや離れており、進化系統樹ではP. minusがより原始的とされています。


P. wilsonii

P. haiananensis

P. minus

図3 Aphyllae亜属の一部

 胡蝶蘭の中でもっとも特異な形状をもつグループは図4に示すParishianae亜属と感じます。いずれも側ガク片は背ガク片や花弁よりも顕著に大きく幅広で、さらにリップは風などで前後に揺れる構造をもっています。これは他の亜属にはない特徴です。可視的な印象としてはリップが羽を広げた昆虫に擬態化し、左右に開いた羽と、2本のカルスの糸状突起が触覚のようにも見えます。リップの上に重なるように花粉媒介者(昆虫)が乗って、再び飛び立つとき昆虫の頭の部分が蕊柱の先の芍帽にぶつかり、これが外れて花粉魂が頭に着き、この昆虫が再び別の花を訪れ、飛び立つ時には、頭に着いた花粉魂が今度は蕊柱先端のフックに引っ掛かって交配が終了するという仕組みを想像します。他の亜属ではリップ側弁が大きくカルスを覆っているため蕊柱に至る昆虫の通路の関係から小昆虫と思われますが、側弁が小さなこの種では、このような仕組みを想像することも面白いと思います。これらの種固有の花粉媒介者の雄雌を調べ、その形態を検証してみたいものです。


P. appendiculata

P. parishii

P. gibbosa

図4 Parishianae亜属の一部 

 現在の分類法で、もっとも不可解なのはDeliciosae節(P. chibae, deliciosa, mysorensis)と、Phalaenopsis節(amabilis, schilleriana, etc.)とが同じ仲間(亜属)とされていることです。図5には左2枚がDeliciosae節、右2枚がPhalaenopsis節のそれぞれの種です。これらの違いを表にしますと下記となります。

表1 DeliciosaeとPhalaenopsis節の違い
 
Deliciosae
Phalenopsis
花被片
側ガク片が最も大きい
花弁が最も大きい
花被片サイズ
1.2-1.3cm
5-9cm
花粉魂
4個
2個
カルス
1組(2分岐歯状突起)あるいは2組
1組(盾型)
薄葉・濃緑色、アンジュレーションを含む
厚葉、クチクラ層が発達
リップ中央弁形状
鉾、扇形など
三角形状
リップ中央弁先端
凹凸
巻き毛あるいは線状突起

 DNA分析ではDeliciosae節はPhalaenopsis節やPolychilos節(amboinensis, gigantea, luddemanniana, violacea, etc.)との遺伝距離は離れているとされています。このことが可視的にもPhalaenopsis節との形態の大きな違いを裏付けているのではないかと思いますが、P. deliciosa, P. chibaeは、DNA分析の観点からも、Phalaenopsis亜属よりは、むしろAphllae亜属に近いとする研究があります。

 形態的には図3と図4で見られるようにP. chibaeはParishianaeに類似し、P. deliciosaはAphyllae亜属に似ています。この点から、これらをAphyllae亜属とすべき、あるいは花粉魂4組タイプで纏めるべきという主張は説得力があります。むしろ逆の視点から、なぜこれらが同じPhalaenopsis亜属となったのかその根拠が知りたいと思います。Deliciosae節の種はAphllae亜属と違って、落葉しない、交配後の花被片が枯れる、ヒマラヤ周辺だけでなく広範囲に分布しているとする説(Aphyllae亜属も花被片は枯れるので何かの間違い)がありますが、Aphyllae亜属も温度と湿度を熱帯雨林帯に近い栽培をすると落葉しない性格があることから、これらの理由だけでPhalaenopsis節と同じ亜属とするには根拠が弱い感があります。


P. chibae

P. deliciosa

P. amabilis

P. schilleriana

図5 DeliciosaeとPhalaenopsis節

 2006年改版中国科学院出版物には中国に生息するPhalaenopsis属はP. manniiP. wilsoniiとし、今日でもP. braceanaはKingidiumとして記載しています。一方、フィリピンのマーケットではP. deliciosaをPhalaenopsis属とは呼ばずkingidium Philippinenseとしています。

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Amabilisグループ 

P. amabilisは台湾からフィリピン、ボルネオ、インドネシア、マレーシア、マラッカ諸島、オーストラリアに至る広範囲に生息分布する種であり、それだけに多様な地域差が見られます。P. amabilisのグループにはP. amabilis, P. aphrodite, P. philippinense, P. sanderiana, P. schilleriana, P. Stuartianaが含まれます。これらは他の種と比べて比較的大型で、花被片形状、花茎、葉の厚み、根および交配後のさく果形状および花被片の変化(枯れて縮れる)が共通しています。なかでもP. amabilisP. aphroditeとは酷似しており、唯一の可視的違いはカルス形状となります。P. amabilisを除いてこれらはフィリピンのみに生息しており、フィリピン内における現在知られている分布は下記となっています。

表2 Amabilis グループ
P. amabilis
Palawan, Tawi Tawi (Sulu archipelago)
P. aphrodite
Bataan, Camiguin, Luzon, Mindanao, Bilirau, Leyte, Samar, Negtros, Babuyan Is.
P. philippinense
North Philippines (Luzon)
P. sanderiana
South Philippines (Mindanao, Igat, Balut and Saragani)
P. schilleriiana
Luzon
P. stuartiana
Mindanao, Leyte

 

 これらの内、さらに近縁関係として、P. amabilis, P. aphrodite, P. sanderiana P. amabilis Complex (グループ)、 P. philippinense, P. schilleriana, P. stuartianaP. schilleriana Complexとまとめています。P. aphroditeはフィリピン内で比較的広範囲に分布していますが、他の種は限られた地域に分布し、前記グループ間では地域が同じであっても、混生あるいは同一時期に花をつけることはないと言われています。これらが一つの種から進化したと見る場合、もっとも古い祖先(Ancester)はP. aphroditeとする説があります。最初にP. aphroditeがフィリピンのPalawanに現れ、一部が北上してCalayan諸島を通り台湾へ、またPalawan諸島を経たものはP. amabilisに進化し、これがボルネオ島、スマトラ島、Mentawai島の西方へ、一方、南下したP. aproditeはMindanao島にて一部がP. sanderianaとなりミンダナオ島周辺に留まり、P. amabilisに進化したものはSulawesi、 Java、東Timor、ニューギニア、オーストラリアへ南下したというものです。


P. amabilis

P. aphrodite

P. philippinensis

P. sanderiana

P. schilleriana

P. sturtiana

図6 P. amabilisグループ

 この結果、P. amabilisは広範囲な地域、Java, Mentawai, Palawan, Sabah, Timor, Moluccana, New Guineaに分布する過程で、それぞれの地域差が生まれるに至ったとされます。特にニューギニアに分布したリップ形状が3角形であるrosenstromiiは他の地域間との遺伝距離が大きくSubspecies(亜種)とされています。すなわちPalawanを経てインドネシアに広がったP.amabilisと、Mindanao島を経てニューギニアへ南下したP. amabilisは全く別のルートを経て進化した亜種の関係であるとする説です。また遺伝子分析によると、PalawanのP. amabilisP. aphroditeP. amabilisとの中間的位置にあるとされます。一方、P. amabilis Javaは他の地域の種との遺伝距離がやや遠いとされます。

 Palawan amabilisとボルネオ島のSabah amabilisは遺伝子的に近いとされるのは、P. aphroditeがPalawan周辺においてP. amabilisへと進化し、Palawan諸島を経て(かっては陸続きであった)ボルネオ島Sabahに移動した説に基づけば地理的関係から当然のように思われます。またPalawan産P. amabilisP. aphroditeに近いことはリップ形状から推定できるものの、ボルネオ産P. amabilisには形態的に2タイプが観測され、P. amabilis grandifloraに代表されるように花被片形状もリップ形状もP. aphroditeのように丸みのある花被片ではなく、Java産に近いものと、PalawanとJavaとの中間にある形態のそれぞれが見られます。

 P. sanderianaP. aphroditeP. amabilisに遺伝子的に近く、P. amabilis寄りとされています。P. sanderianaはミンダナオ島周辺にのみ生息します。ここで謎が生まれます。P. aphroditeはフィリピン内で広く分布するものの、Palawan周辺で進化したP.amabilisはルソン島中部以南からミンダナオ島には生息しておらず、南下説においては、どうしてミンダナオ島をスキップしてニューギニアへ移動できたかという疑問点です。一つはミンダナオ島までP. aphroditeが移動し、そこでP.amabilisに進化したと考えられます。しかしそれならば進化過程の産物としてPalawanではPalawan amabilisがあるようになぜMindanao amabilisが生息していないのかという問題が生じます。

 南下経路の途中であるミンダナオ島にはP. amabilisが生息しないものの、遺伝子的にP. aphroditeよりもP. amabilisに近いとされるP.sanderinaが生息していることは、P. sanderianaに進化した後にP. amabilisになったとも考えられますが、そうであれば南下したP. amabilisにはP. sanderianaの特徴、葉色などの遺伝的形態があってもよい筈です。しかしそれは見られません。一方、それとは異なりミンダナオ島あるいはニューギニアまでP. aphroditeが南下し、そこでP. amabilisに進化したのではないかとする仮説も考えられます。しかしこの説ではニューギニアにもP. aphroditeが生息しなければなりません。さらにフィリピン中部のPalawan経由の西南方ルートと、ミンダナオ島経由の南下ルートの2つの独立した経路を持ちながら同一種に分類されるP.amabilisがそれぞれの離れた場所で進化したとする偶然性にも疑問が残ります。またP.sanderiana自体がP. amabilisにより近いというDNA分析については、フィリピン南部のP. aphroditeのカルス形状がむしろP.sanderianaに近いように観察されのはなぜかという疑問もあります。フィリピン南部のP. aphroditeのカルスはP. sanderianaに似て薄く(図10参照)、カルスの先端側形状もよりP. sanderianaを感じさせます。これらの点でいずれもミンダナオ島経由の南下説には不満が残ります。

 一つの仮説として、P. aphroditeの一部がPalawanでP. amabilisに進化し、ボルネオ島からインドネシア、Timor、New Guinea、Australiaへと分布したものとするPalawan単一ルート説を考えれば上記の疑問はなくなるのですが、趣味家にとって楽しいのは、科学的に分析された進化説がすでに確立しているのであれば想像の余地はないのですが、未だ疑問が残るあるいは多説があるものは、邪馬台国の議論のように、自由に想像する楽しみがあります。例えばこのような考えはできないのかという仮説です。

  1. 第1段階
    まず最初にPalawan周辺に広がったP. aphroditeが、P. amabilisに進化し、進化したP. amabilisはボルネオSabahに移動(残り)し、一方ではP. aphroditeがPalawanからフィリピン、calayan諸島を経て台湾に北上し、これがP. aphrodite formosanaとなる。また南下したP. aphroditeは広くフィリピン全土に分布するに至る。
  2. 第2段階
    ボルネオSabahに残ったP. amabilisはgrandifloraのようなやや細いリップ構造や、葉色が茶褐色等の変異を生み、これらが3つのルート:スマトラ島、Sulawesi島、およびMindanao島に続くSulu-archipelago諸島に分散し、スマトラ島はさらにマレーシア、Mentawai島へ、Sulawesi島はJava、東Timor、New GuineaさらにはAustraliaへ移動した。
  3. 第3段階
    Sulu-archipelagoに移動したP. amabilisはMindanao島最南部でP. sanderianaに進化した。

 なぜP. amabilisがこれほど東南アジアに広く分布しているのにフィリピンにはPalawanの一部とSulu-archipelagoのボルネオ島寄りのTawi Tawi島にしか生息していないのかですが、Palawan、, Mindoro、Zamboanga島がユーラシア大陸から分離する(1千万年前)なかでも最も古い島であり、一方今日のフィリピンのそれぞれの諸島は新しく誕生(5百万年前)したと言われています。PalawanがボルネオSabahから分離する頃にPalawanでP. aphroditeからP. amabilisが進化するとともに、P. aphroditeは古い種であることから新しく出来つつあるフィリピン諸島の一部にはすでに分布している一方、ボルネオとPalawan、さらにPalawanとフィリピン諸島がそれぞれ分離した関係のなかでPalawanからフィリピン諸島へのP. amabilisの移動も困難になってしまったのではないか。またMindanao島につながるZamboangaも、その頃にはボルネオSabahとつながっており、SabahからSulu-archipelagoに移動したP. amabilisがSulu-archipelagoの北端でP. sanderianaに進化したとすると、Sulu-archipelagoのボルネオ寄りのTawi-Tawi島にP. amabilisが現在生息し、一方、P. sanderianaはMindanao島南部しか生息せず、またMindanao島にはP. amabilisも生息しないという理屈が合うのでは。さらにP. sanderianaの遺伝子距離はP. aphroditeよりもP. amabilisに近いということにも適合することになります。一方、フィリピンにP. amabilisが移動できないとしても、なぜその後の時期にマレー半島、Java、スマトラ島、Malucca、西Sulawesi島等に移動できたかですが、これらはボルネオ島を含めSunda Shelf上にあり、氷河期の時代には海面低下で陸続きではなかったかとする説です。

 たとえばGoogleマップの航空(Satellite)写真でフィリピン周辺の海を見ると良く分かりますが、PalawanおよびSulu-archipelagoとボルネオとの間は浅い海であることが分かります。一方ボルネオとSulawesiとの間には深い海溝があり、この地質的条件がP. amabilisのボルネオからSulawesiへの移動ではなくMindanao等からの南下説(Mindanao島GlanからSulawesiのManado)の背景にあるものと思われます。しかし、ボルネオ島のKalimantan selatan沖の浅い海からSulawesiのMamujuまでの距離は20Km、あるいはSulawesiのMakassar間にはとび島があります。これで形態と地理的分布との関係は一見整理ができたように感じますが、仮説であって明確な根拠がある訳ではありません。

 一つの仮定が崩れれば成り立ちません。例えばもし、P.amabilisの方がP. aphroditeよりも古い種であったと仮定すると、ボルネオ島から各地域に分散し、PalawanP. aphroditeに進化したことすると、地理的に考えても遥かにこの方が論理的です。


P. amabilis Palawan

P. amabilis Borneo

P. amabilis Borneo

P. amabilis Sumatra

P. amabilis Java

P. amabilis Irija

図7 Palawan、Borneo、Sumatra, Java、Irija産 P. amabilis


P. amabilis Palawan

P. amabilis Borneo

P. amabilis Borneo

P. amabilis Sumatra

P. amabilis Java

P. amabilis Irija

図8 P. amabilis リップ形状 (側弁を切り取っている)

 しかしいずれにしてもこのような想像を各自がして見ることも面白いことと思います。このような背景からPalawanやSulu-Archipelago共にボルネオ島との歴史的なつながりのあったSulu海峡のそれぞれの諸島に生息する胡蝶蘭は、後述のP. sumatranaP. amabilisおよび P. aprodite等、いずれも種の進化を知る上で貴重な地域種と考えれらます。しかし現在は州の規制が厳しくなったため入手は困難とのナーセリの話です。一方、ボルネオ島を跨ぐP. fuscataもフィリピンに生息するとされますが、どの蘭園業者も未だフィリピンにおいては見たことが無いとのことでフィリピン産P. fuscataは幻の蘭と言えます。

図9 P. aphroditeの各種リップ中央弁とカルス形状 (側弁を切り取っている)

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P. amabilisグループにおける異質な株

  1. 判別不明な種 

 図10はP. amabilisとしてフィリピンから入荷した3株の内の1株です。明らかにP. amabilisとは異なり、カルス形状およびリップ中央弁の幅の広さ(3角形に近い)からはP. aproditeと考えられます。葉形態は他の2株のP. amabilisと同じで蘭栽培業者から見ても判別は困難です。一方フィリピンに生息する多くのP. aproditeのカルスは図9に見られるように丸みと厚みがありますがこの株のカルスはP. sanderianaのカルスに似て、薄くそれぞれの突起は鋭角でシャープな感じを受けます。生息地は不明ですが、おそらくフィリピン南部産ではないかと思われます。このようなカルスを見ると、P. sanderianaP. amabilisではなくP. aproditeから進化したのではないかと感じます。なぜDNA分析でP. amabilisに近いか不思議です。

図10 P. amabilisに混入したP. aphrodite

  1. Palawan産P. amabilisについて: 

 Palawan産P. amabilisとしてフィリピンから輸入した株のカルス形状を取り上げます。図10-2のA-Eの写真は10株それぞれのPalawan産P. amabilisとされるカルスを、またFはP. amabilisカルス形状をもつフィリピン産(左)とボルネオ島P. amabilis grandiflora (右)をそれぞれ示します。


A

B

C

D

E

F
図10-2 Palawan産P. amabilis(A-E)とP. amabilis(F)

 上図A-Eは同一ロットの株であり、産地も同じと思われます。形状は大きく3つに分かれており、一つはP. amabilis形状で1組の写真内で、左右それぞれの左を(L)、右を(R)とすると、A(L), B(R), D(R)がそれに該当し、P. amabilisP. aphroditeの中間形状がB(L)、D(L)、その他がP. aphroditeのカルス形状に類似しています。上図A-Eのリップ中央弁とカルスを上から見た映像を図10-3(左)に示します。また右写真は上段がP. amabilisに類似したA(L)とB(R)と下段にP. amabilisのF(L)とF(R)を並べたものです。

図10-3

 さらに図10-4では上段のGがP. aphoridteに類似したE(L)のカルスを、HはP. amabilisに類似したA(L)のカルスを、Iはどちらとも判断の難しいD(R)のカルスを拡大して表示したものです。LはIのカルスを横から見たものです。またJはそれぞれ別地域のP. amabilisで、Kは角度を変えて撮影したものです。


G

H

I

J

K

L
図10-4 Palawan amabilis (G、H、I、L)とP. amabilis (J、K)

 P. aphroditeP. amabilisとの違いは、図10-5の一般のP. aphroditeに示すように、盾型のカルス形状(左端)には左右に開いた翼があり、翼の外周に沿って、前部(anterior側1)と中央部(最も大きく突き出た部分2)及び後部(posterior側3)の3つの凸部から成ります。またこのカルスの構造を詳しく見てゆくと、下の右2枚の写真で見られるように後部ではAおよびBの2枚の板状の翼(これを英語ではerect teethと言う)が重なりあって接合している構成で、後部の突起3は板状翼Aであることが分かります。P. amabilisにはこの後部が分離しているような構造はなく、厚みのある一枚の板状突起で構成されています。

図10-5 P. aphroditeのカルス

 そのような構造的な違いを前提に再び図10-4のG、H、Iのそれぞれの写真を見ると、GはP. aphroditeに近く、Hはほとんど1枚の板状となっており、またIはその間の形状になっています。JおよびKはカルスが完全に1枚の突起となったP. amabilisで奥がP. amabilis grandifloraです。grandifloraはBorneo産ですがIやHに近い形状です。但しリップ中央弁はかなり異なります。

 図10-6は左からP. aphrodite、P. amabilis Palawan、P. amabilis Palawan、P. amabilis grandiflloraを順次並べたものです。Palawan産については左がP. aphrodite寄り、右がP. amabilis寄りのカルス形状で配置したものです。中央弁の幅は右端を除いて、いずれも図8と比較すると幅広となっています。


図10-6 P. aphrodite, P. amabilis Palawan, P. amabilis Palawan, P. amabilis grandiflora (left to right)

 これらの株がPalawan産であることを前提にその多様性を取り上げましたが、このような多様な変化が同一地域のなかにあるのは、おそらくこのPalawanとSulu-archipelagoなど特定地域だけではないかと思われます。

  1. ClumpタイプP. amabilis

 図11はP. amabilis v. formosanaとして入荷した株で、Clump(群生)タイプと呼ばれるものです。このタイプは胡蝶蘭が単茎性である形態を覆すように主茎から脇芽がで、それが成長して次々を株を増やしていきます。本来は花序(花茎)となるべき芽が何らかの原因で栄養芽に変わってしまう性質をもったものと思われます。この形態はP. cornu-cerviにも見られます。台湾にはP. amabilisは生息せず、これまで言われてきたP. amabilisP. aphroditeの変種であるとする分類が近年言われていますが、図11の写真にあるカルスはP. amabilisに近い形状であり、中央弁は他のP. amabilisP. aphroditeには見られない扇形の独特の形状をもっています。

図11 P. amabilis v. formosana clumpタイプ

  1. P. amphitrite ?

 図12はP. stuartianaとして入荷した株ですが、背ガク片および花弁にピンク色が入ります。出荷元はミンダナオ島から300株入った内、1株が本種であったとのことです。色合いからするとP. schillerianaとの自然交配のように思われますが、ミンダナオ島にはP. schillerianaは生息しないと言われています。他はP. sanderianaですが開花時期が異なります。なぜこのような色をもっているのか謎です。葉は表面が大理石模様、裏面は茶紫色で、P. stuartianaとして一般的なものです。もしかするとこれがP. stuartiana x P. sanderianaの自然交配のPhal. amphitriteかも知れません。そうだとすると1900年以降、世界初の自然交配写真ということになります。

図12 P. stuartiana SP

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Cornu-cerviグループ

 Cornu-cerviグループはPloychilos亜属に分類され、P. borneensis, P. cornu-cervi, P. lamelligera, P. mannii, P. pantherinaが含まれます。P. lamelligeraP. cornu-cerviとは別種とするだけの特徴がないとする説がありますが、近縁であるものの遺伝子的にはP. cornu-cerviと離れていることが検証されています。P. amabilis同様あるいはそれ以上にP. cornu-cerviは広範囲に分布する種ですが、P. amabilisほど地域的な亜種(Subspecies)は知られていません。今日最も研究余地を残す種と言えます。

表3 Cornu-cerviグループ
P. borneensis
Borneo
P. cornu-cervi
Northeastern India, Thailand, Nicobar Is, Bhutan, Java, Borneo, Sumatra, Philippines
P. lamelligera
Borneo
P.mannii
Northeastern India, Nepal, China, Vietnam
P. pantherina
Borneo


P. borneensis

P. cornu-cervi

P. lamelligera

P. mannii

P. pantherina

図12 P. cornu-cerviグループとカルス形状


Thailand

Java

Philippines

図13 P. cornu-cervi地域差

 栽培の視点からは、興味深い特徴がP. cornu-cerviに見られます。タイ、スマトラ、ボルネオ島では半年程度ですが、フィリピン産は胡蝶蘭のなかで唯一、季節を問わず周年開花していること、リップ先端の三日月あるいは楔状の形状が地域によって異なる(フィリピン産は小さい)ことです。またP. cornu-cerviはクラスター状で生息すると言われています。株自身も一般的な単茎性のものと、クラスター状(脇芽が複数の主茎となる)のものがあり、これはP. amabilisにもある特性です。またP. amabilisP. aphroditeを祖先とするように、P. cornu-cerviはどの種を祖先とするかの問題では良く分かっていません。進化系統図を見ると、上記表の内、P.manniiがもっとも初期に現れており、次にP. lamelligeraとなっており、さらにP. cornu-cerviと続きます。P. manniiが大陸を東西に広く分布していることを考えるとP. manniiを起源とする可能性が高いように思われます。確かにP. manniiの外形からはP. cornu-cerviとリップ先端形状を除き区別できないタイプが多く見られます。P. manniiと共にP. cornu-cerviもまたヒマラヤ地方で発生し、インドシナ、マレーシア、ボルネオ島、フィリピンと移動し、ボルネオ島内でさらにP. borneensisP. pantherinaに進化したのではないかと思います。そうするとP. cornu-cerviを除くボルネオ島のみに生息する他の種はボルネオ島が大陸から離れた、更新世の時代に分化した新しい種と見なすことができます。 

 一つ問題なのはP.manniiを除く、P. cornu-cervi系の全ての種の花茎はフラットでジグザグ形状であるにも関わらず、なぜP. manniiだけが花茎形状が円筒形かです。言い換えればP. manniiをこの節に含めるべきなのかという点です。これはP. violaceaP. violacea Mentawaiにもある特徴です。もう一つの問題は、P. cornu-cerviグループは無臭とされていますが、Java産と思われる種には強い匂いがあり、他の地域とは明らかに異なっていることです。この匂いの有無は、地域差によるものか、変種か、あるいは別種とすべきなのかは分かりませんが、P. modesta P. hieroglyphicaにも同様の匂いのあるものと無いものの様態が見られます。匂いは花粉媒介者を呼び込むための機能であり、この有無は同一の花被片のパターンをもつ種にとっては種の存続に関わります。地域によって花粉媒介者が異なるからか、媒介者の密度によるもの(強くないと呼び込む機会が少ない)かなど様々考えられます。一般に変種は形状や色から決められていますが、匂いの有無や違いによる変種の分類やその進化についての研究(例外的にP.bellinaP. violaceaのみが成分分析された)は行われていません。これも大きな課題です。


P. cornu-cervi

P. mannii

図15 P. cornu-cerviP.manniiの花茎

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Luedemannianaグループ

 LueddemannianaグループはAmboinenses節に分類され、P. bastianii, P.fasciata, P.hieroglyphica, P. lueddemanniana, P. mariae, P. pallens, P. pulchra, P. reichenbachianaの8種が含まれます。全てフィリピンに生息し、P.mariaeのみボルネオ島にも生息します。フィリピン内では表の分布となります。

表4 Lueddemannianaグループ
P. basitanii
Sulu Archipelago
P. fasciata
Luson, Mindanao, Bohol
P. hieroglypica
Palawan, Polillo, Mindanao
P. luedemanniana
Aparri, Mindanao
P. mariae
Luzon, Mindoro, Mindanao, Sulu-Archipelago, (Borne Is)
P. pallens
Luzon, Provinz Bataan, Mt Mariveles, Lanao River
P. pulchra
Luzon, Leyte
P. reichenbachiana
Mindanao

 


P. bastianii

P. fasciata

P. hieroglyphica

P. lueddemanniana

P. pallens

P. pulchra

P. mariae

P. reichenbachiana

図16 Lueddemannianaグループ

 P. mariaeを除き、Luedemannianaグループがフィリピン内のみに生息するということは、フィリピンの島々がユーラシア大陸から分離した後に、これらが進化したものと考えられます。地質学によると、5百万年から1千万年前にはボルネオ島とPalawanはつながっており、1千万から2千万年前にPalawan, Mindanao, Zamboangaが分離し始め、その他の島は遅れて5百万年前に創られたとされます。P. mariaeがSulu-Archipelagoとボルネオに生息することは、地質学的にSulu-Archipelagoとボルネオ島がつながっていた時代にSulu-Archipelagoからボルネオ島に移動したのではないかとされます。またP. mariaeがこれらグループのなかで最も古く、他の7種はフィリピンのみに生息することから、5百万年以降フィリピンが大陸から分離した更新世(新生代第4紀前半氷河期)にP. mariaeから進化したのではないかという説があります。これは前記のP. aphroditeからPalawanで進化したP. amabilisがボルネオ島には生息しているもののフィリピンのほとんどの島には生息していないことと共通しており、同じ時期のプロセスを経た可能性を感じます。

 Lueddemannianaグループの間では、遺伝距離はBastianiiPallen、HieroglyphicaReichenbachiana、FasciataPulchaがそれぞれ近いとされています。カルス形状からは後者2組は逆ではないかとの印象があります。またグループとの遺伝距離が比較的離れていることからReichenbachianafasciatahieroglyphicaとの自然交配の可能性が指摘されていますが確かではありません。

 Lueddemannianaグループのなかの独立した種ではなく、Lueddemannianaの変種としてDelicata(あるいはDeltonii)が知られていますが、形態的特徴(リップ、カルス、花被片大きさ)を見る限り、Lueddemanninaとはかなり異なった特徴をもっているように思えます。またLueddemannianaはフィリピン北部からミンダナオ島に至る広範囲に分布していると思われますが、特にミンダナオ島に生息する種は赤味が強いものが多く、中には花被片の棒状斑点を覆う程のソリッドタイプも地域差として見られます。このためか、P. pulchraのミスラベルでフィリピンから出荷されることがあります。

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P. fasciataP. reichenbachiana

 P. fasciataP. reichenbachianaは、P. fuscataP. kunsterliとの関係と並んで最も視覚的に判別が困難な種です。P. fasciataはルソンからミンダナオ島まで分布しているのに対して、P.reichenbachianaはミンダナオ島のみに生息するとされています。花被片外形からの識別は殆んど不可能で、P. fasciataの背ガク片や花弁がやや細長く、P. reichenbachianaが幅広とされますが、これが決定的な種別の要素となるとは言い難く、個体差の範囲と考えられます。現在筆者はルソンとミンダナオ産のP. fasciataを合わせて50株以上を栽培していますが、フィリピン蘭園では、P. fasciataP. reichenbachianaを区別して販売しているところはなく、すべてP. fasciataとしています。よって実生からP. reichenbachianaとして栽培している蘭園は皆無であり、P. reichenbachianaを入手するには野生株あるいはその栽培株以外は困難であろうと思われます。

 H.R.Sweetのリップおよびカルスに関するイラストでは、P. fasciataのリップ先端部は外縁に細かな凹凸をもって丸みがあり、カルスはanterior(先側)は2分岐の突起状で、posteriorカルスは細かい密集した多数の線状突起があります。anteriorとposteriorカルスの境に小さな2分岐突起が見られますが、これはposteriorカルスの一部と見なされ、カルスは2組(biseriate)とされます。一方、P. reichenbachianaはリップ先端は鉾先形でリップの付け根はくびれており、anteriorカルスはP. fasciataと同じ形状ですが、posteriorカルスの小突起はP. fasciataほどの密集した数もなく、僅かであり、反面anteriorとposteriorカルスの境に明確な2分岐歯状突起が見られます。このためP. reichenbachianaのカルスは3組(triseriate)としています。


P. fasciata Callus

P. Reichenbachiana Callus

図14 P. fasciataP. reichenbachianaのカルス形状 (H.R. Sweet)

 まずリップ先端の形状は丸みのあるものと鉾形状がありますが同一種のなかでも見られることから、この外形形状が種の判別の要員とすることは困難で、これは例えばP.hieroglyhicaP. lueddemannianaにも多く両者が混在します。むしろリップ形状で重要なのは、リップ先端部の外周の鋸歯状凹凸の有無(P. fasciataは凹凸あり)(P. reichenbachianaはスムーズ)の方が関係するように思われます。またP. reichenbachianaの比較的目立ったcentral カルスの有無が重要であるとすると、全体としての種別の判断として、一般的にはP. reichenbachianaは、

  1. 花被片形状が幅広
  2. リップ形状が鉾形か幅広また外周先端部に凹凸がない
  3. 2分岐歯状突起のCentralカルスがある

のそれぞれのAND条件(全てが一致)がP. reichenbachianaと見なすことができることになります。上記以外ではE.A. ChristensonによるとP. fasciataは青リンゴ、P. reichenbachianaはカビ臭い匂いがあるとされています。このルールに則って分類した種を示します。


P. fasciata

P. fasciata

P. fasciata

P. reichenbachiana

P. reichenbachiana

P. reichenbachiana

図15 P. fasciataP. reichenbachianaのカルス形状

 図16は同一の地域(ルソン島)で採取された2組みを示したものです。リップおよびカルスはそれぞれ左の花のものです。ここで花被片は左がP. fasciata、右がP. reichenbachianaの形状を持っています。一方リップを見ると、左組みでは中央弁外周はキザミが入り、またリップは中央にやや飛び出た2分岐の突起が見られますがposteriorカルスの腺状突起と比べてそれほど大きくはありません。一方右のリップ中央弁の外周は滑らかで、中央部の2分岐突起はかなり大きく飛び出ています。これは図14のP. reichenbachianaのカルスに類似しています。図14に比べてリップ中央弁の菱形(矢じり)形状ではなく細長く丸みを帯びている点は異なりますが、中央弁のこのような形状の違いは同一種でありながらlueddemannianaやhieroglyphicaにも共通して見られるため、この形状が種の判別の要件にはなりにくく、そうすると左がP. fasciata、右がP. reichenbachianaとなります。問題はこれらが同一の地域、それもルソン島からの株であることです。よってこれらをそれぞれP. fasciataP. reichenbachianaとするとミンダナオ島以外にもP. reichenbachianaは生息するということになってしまい、従来の説は間違いとなっていまいます。

 一方、ミンダナオ島から採取されたものは、上記の分類条件を用いる限り、現在のところP. fasciataであるとする決定的な株を入手していません。すなわちミンダナオ島の多くのP. fasciataとされる種の多くがP. reichenbachianaあるいはそれに近いという結果になっています。また両者がルソン島にも生息するか、あるいは図16の右写真のような、その中間的な種が生息する可能性があることが予測されます。DNA分析によればP. fasciataP. reichenbachianaとは遺伝距離があるとされており、下写真右のような種も検証する価値があるように思われます。

図16 P. fasciataP. reichenbachianaとの中間形状

図17にはMindao島からのP. reichenbachianaと思われる株を示します。リップ中央弁はH.R. Sweetのイラストに類似しています。右から2枚目のカルスで中央に少し飛び出た2分岐突起をcentralカルスとすれば、カルスは3組となりP. reichenbachianaとなります。一方、右端の写真のanteriorカルスを見ると、長く突き出た2分岐突起の上に同じような2分岐の突起が重なるように突き出ています。多くの種でanteriorカルスの上には重なるように密着してもう一つの突起様態を見ることができますが(P.bellinaなど)、これほど明瞭に分離したものはありません。これはcentralカルスではないと思われますが、一つの変異形かもしれません。

図17 他のP. reichenbachiana中間形状

 図18はP. fasciataとして入荷した株のそれぞれ異なる株のカルスを示したものです。左はanteriorカルスは2分岐の歯状突起がありますが、posteriorカルスは同じような長さの線状突起が多く密集しています。一方右写真では線状突起がほとんどなく、anteriorカルスと中央にやや小さい2分岐歯状突起があり、posterior側にはわずかな腺状凹凸だけとなっています。カルスは花被片の形状や色以上に種の同定に重要な要素であるとすると、この両者は同一種とは思われないほどにカルス形状が異なります。これは後述のP. lueddemannianaとその変種とされるP. delicataと共通した特徴です。花被片や葉の視覚的な形態からはその違いを見出すことは困難で、前記の形状と同様にP. fasciataあるいはP. reichenbachianaにはこのような形状変化をもつものが多く見られます。P. reichenbachianaP. fasciataP. hieroglyphicaとの自然交配種ではないかという説がありますが、リップ中央弁の鉾型形状は他のlueddemannianaグループにもあることから、それを除くと、これまでP. hieroglyphicaの特徴をもった株を見たことがありません。このようにP. fasciataを見ていくと、この種におよびその近縁種については、カルス形状からの種の同定は非常に難しいということになります。P. cornu-cerviと並んで今後の研究課題として興味ある種の一つです。

図18 P. fasciataあるいはP. reichenbachianaのカルス形状

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Lueddemannianaおよび Delicata

 P. delicataP. lueddemannianaの変種とされています。一方、一般的に変種とされる主な要因は花被片の色(albaなど)とされていますが、P. delicataP. lueddemannianaには花被片よりはむしろリップやカルス形状が大きく異なっており、別種かあるいは亜種(subspecies)ほどの相違が見られます。花被片の違いは、P. lueddemannianaに比較してP. delicataは小さく、P. lueddemannianaのリップ中央弁は突起状先端部と左右に幅のある鉾先型ですがP. delicataはスムーズな楕円形であること、またP. lueddemannianaのposteriorカルス(上段左端図の3)は線状突起が多数ありますが、P. delicataは僅かな凹凸があるだけです。これはP. sumatranaP. zebrinaとのカルス構造の関係と類似します。P. delicataの葉色が緑色がやや強いものが見られますが、葉形状や花茎の形状に目立った違いを見出すことは困難です。

 一方、P. lueddemannianaのカルスは2組(biseriate)とされていますが、右端のカルスを見るとanteriorカルスの2分岐歯状突起 1 とposteriorカルスの線状突起 3 の間に2分岐の突起 2 が見られ、カルスは3組のタイプのように見えます。突起2は3に含むということでしょうか。

 
花被片1
花被片2
リップ中央弁
 
カルス
Lueddemanniana
Delicata

図19 P. lueddemannianaP. delicata

Lueddemanniana Delicata

図20 P. lueddemannianaP. delicata

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ViolaceaとMentawai

 P. violaceaP. amabilisと並んで胡蝶蘭の中では最も人気の高い種です。P. violaceaの近縁種としてP. bellinaが知られています。P. violaceaがマレー半島、スマトラおよびMentawai島に生息しているのに対してP. bellinaはBorneo島のみに分布しています。かってはこれらを同じP. violaceaとし、ボルネオ、マラヤ、スマトラ型と分類することもありましたが、現在はボルネオ島産をP. bellinaとして別種としています。一方マラヤおよびスマトラに生息する種については、M. Chiba氏の著書でスマトラ型がボルネオとマラヤとの自然交配の可能性があるのではないかとの見方もありましたが、DNA分析ではマラヤとスマトラとはその違いを見出すことはできないとされています。また遺伝距離分析ではP.bellinaP. violaceaとは離れ、むしろP. florensensisに近いという説もありますが、一方でP.bellinaP. violaceaと極めて近いという分析もあります。このような分析の相違はサンプルの信頼性が問題です。特にP. violaceaは人気が高いだけに交雑が進み視覚的形態で見る限り、それぞれに違いがあっても個体差、地域差、交雑種の区別は困難になりつつあります。

 問題はMentawai島に生息するP. violaceaです。栽培者であれば周知の通り、多くの点で形態が他の地域におけるP. violaceaとは異なる特徴をもっています。これをP. violaceaと同一種や変種と見ることは、胡蝶蘭全体の分類の基準からすると困難で、同一亜種であることは問題ないとしても別種として扱うべきと思われます。DNA分析によるとP. violaceaとの遺伝距離があり、P. violaceaから進化した(より新しい)種ではないかとも見られています。おそらく、スマトラ島から分離したMentawai島のP. violaceaが独自に進化したものと考えられます。P. violacea mentawaiとの相違は下表となります。

表5 ViolaceaとMentawaiとの違い
violacea
mentawai
花被片 紫、赤、セルレアなど多彩 薄紫色
花茎 扁平ジグザグ。長さは葉長程度か以下 円筒形。50cmを超える
卵形楕円 長楕円、アンジュレーション
太い やや細く多数

 
花被片
花茎
Violacea
Mentawai

図21 P. violaceaMentawai

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Sumatranaグループ

 P. sumatranaグループにはP. sumatrana, P. zebrina, P. corningianaの3種が含まれます。これらの分布は図22の分布地図に示すようにP. sumatranaがボルネオ島からスマトラ、インドシナ、P. zebrinaがスマトラ、ボルネオ島からPalawan、P. corningianaはボルネオ島のみに生息します。 P. sumatranaの花被片のパターンはP. zebrinaと非常に似ており、一般的には P. sumatrana,は黄白色あるいは黄緑色をベースに茶褐色から赤褐色の棒状斑点が、主として円周上に分布するとされ、これに対しP. zebrinaは白色をベースに細い棒状斑点が比較的疎らに入ります。しかしこのベース色の違いは個体差や地域差がそれぞれにあって確定的な条件ではないと思われます。むしろ匂いがそれぞれ異なると指摘されています。筆者はP. zebrinaP. floresensisに似た匂いであることは確認しているものの、3種類を同時に比較していないため、その明確な違いは現在は不明です。

 P. sumatranaP. corningianaの違いについて花被片の色を見る限り、ベース色は黄白色で同じですが、P. corningianaは赤味の強い点状あるいは棒状の斑点の分布密度が高い印象を受けます。ソリッドタイプも見られます。P. sumatranaにはソリッドタイプは現在まで確認していません。しかしP. corningianaの中には本サイト「58種の・・」のページの写真のように棒状斑点の疎らなものも見られます。さらにP. sumatranaは棒状斑点が横縞なのに対しP. corningianaは縦縞が混じるという説があります。しかし下図の左端写真に見られるようにP. sumatranaでも縦縞があり、この説も決定要因とはなりません。このように花被片の視覚上の要因一つ一つでは同定は困難であり、複数の要因のAND条件により判断する必要があります。

 問題はP. sumatranaP. corningianaの違いについて、前者のカルスは2組(biseriate)で、後者が1組(uniseriate)であるとされていることです。図22のそれぞれのカルスを見ると、P. sumatranaにはanteriorカルスと共に、posterior側にやや小さな2分岐歯状突起があり、その基部側には多くの細かい線状突起が見られます。よって写真中央部の突起を、posteriorカルスの一部とすれば2組となります。一方、P. corningianaにはanteriorカルスとは別に、P. sumatranaと同様に中央部にやや小さな2分岐歯状突起があり、またその基部には僅かに凹凸も見られます。なぜこの形状でP. corningianaのカルスを1組と見なすのか理解できません。

 P. corningianaのこのカルス形状は写真に示すようにP. zebrinaとほぼ同じ形状となります。よってこれらを1組(uniseriate)型であるとP. zebrinaも1組みとなり、P. sumatranaP. zebrinaとは議論するまでもなく異種となります。これを拡大解釈してP. corningianaのカルス構造が1組であれば、図18の右に示した種もこれらに類似したカルス構造であり、右写真は1組のカルスとなり図18右は新種になってしまいます。またP. sumatranaP. corningianaのカルスの構造の違いは図19のP. lueddemannianaP.delicataとも全く類似した関係です。しかしP.delicataP. lueddemannianaとは現在、同種となっており、それで見るとP. sumatranaP. corningianaも同種あるいは単なる変種の関係となってしまいます。これらの結果、sumatranaグループの3種は全て同種で単に地域差にすぎないことになってしまいます。でなければ、なぜP. sumatranaP. corningianaとは別種で、P. lueddemannianaP.delicataが同種なのかという疑問が残ります。

 もう一つの異種条件に関してsumatranaP. corningianaでは匂いが違うという論点があり、匂いを分類の手段に持ち込むと先の図13の、なめし皮のような匂いの強いP. cornu-cerviは匂いをほとんど持たない他のP. cornu-cerviとは異なる別種あるいは新種になってしまいます。筆者としてはP. sumatranaP. corningianaP. zebrinaP. lueddemannianaP.delicata、P. fasciataP. reichenbachiana、および図18右の種もすべてそれぞれが相互に近縁種であることは間違いないとしても別種としたいところです。しかしこの1例に見られるように他の節にも同様な不可解な問題があり、詳しく見れば見るほど、どうもスッキリとしません。見方を変えれば、胡蝶蘭分類はまだ研究の余地が多く、研究者にとってはむしろ良い環境なのかもしれません。


P. sumatrana

P. corningiana

P. zebrina
 
図22 Sumatranaグループ

 P. sumatranaP. zebrinaの違いとなるかどうかサンプル数が不十分ですが、図22にそれぞれの芍帽を示します。これら形状にはそれぞれ異なる特徴が見られます。芍帽の構造はおそらく、蕊柱先端の構造と、花粉媒介者の様態に関係しながら進化したものと思われますが、筆者の知る限り、芍帽形状を論じた研究や資料は見当たりません。これも今後の課題です。入手が困難とされるPalawan産P. sumatrana、これはP. zebrinaを意味しますが2009年入手できましたので、その開花を待って再度調査をする予定です。3種それぞれの分布図にはボルネオ島で3種が混在する領域があり、またP. sumatranaP. zebrinaには広い範囲で共存しています。この結果、これらの自然交配種が生じ、それぞれの種の交雑した特徴をもつ種が多数存在する可能性もあります。

 分類研究では、DNA分析そのものには問題がないにしても、サンプル数およびサンプル地域等によるデータの信頼性の問題は残ります。これら研究は植物バンクからだけでなく、世界中のコレクターからの協力によるサンプルも資料として(コレクターは通常にないタイプを求める傾向があることや、栽培を通して同一種のなかの僅かな違いを認識していることから)、分析することも有益であるように思われます。

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Gigantea, doweryensis, maculataとCochlearis fuscata kunsterli

準備中です。

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P.Equestris

 P. equestrisは現在、変種としてP. equestris v. roseaのみで、フォームとしてはP. equestris f. alba, P. equestris f. aureaが分類されています。P. equestrisはフィリピンルソン島を中心に台湾からミンダナオ島に南北に広く分布しており、結果として、地域にいくつかの特徴が見られます。少なくとも筆者の印象では、ルソン島中部からミンダナオ島まで分布する一般種に対して、3つのそれぞれ異なる形態が見られます。これらは下記となります。

  1. P. equestris normal type (主にルソン島中部からミンダナオ島)
  2. P. equestris f. leucaspis / P. equestris f. aparri
  3. P. equestris v. rosea (Ilcolos)

 ここで leucaspisとaparriタイプとは同一のLuzon島北部地方とされますが、花形態はかなり異なり、花数や葉サイズは圧倒的に前者が多く、長いことが特徴です。問題は leucaspisタイプという種分けが一般的かどうかですが、ここで言う leucaspisの花色の多様さと輪花数の多さの中には、Aparri産より北部のCalayan諸島に見られる特徴があります。葉の大きさや厚みはP. aphroditeP. amabilisと同等で大きく、葉形態からは区別がつかないほど類似しています。Ilocosのroseaタイプとは対照的です。これらAparriやIlocosを含めて距離的にはわずかな範囲で、3つのそれぞれ異なる特徴が見られます。一つの推測としてはフィリピンの気候に関係するのではないかと思われます。フィリピンは熱帯モンスーン気候で、1年を通して乾季、暑期、雨季に分かれますが、Luzon北部は図23に示すように、南北に3つの気候が分布します。赤い矢印は夏の季節風を、青の矢印は冬の季節風を示します。

  1. 東部(ピンク): 年間多雨量
  2. 中部(青): 雨季と乾季の区別はない。1-3月が少雨
  3. 西部(緑): 雨季(5-10月)と乾季(11-4月)が明瞭に分かれる。
  4. 南東部(黄色): 乾季がなく、11-1月多雨
図23 フィリピン気候図

 図23に見られるようにLuzon北部は東部,山岳部(中央)と西部で気候が異なり、特にAparri周辺は2つの気候の境となり、この結果としてLuzon北部地域のP. equestrisに多様性が生じたのではないかと考えられます。それぞれの特徴を表6に示します。

表6 P. equestrisの特徴
 
花形状
同時輪花数
開花期間
葉サイズ及び色

花軸・さく果

その他
normal type


2-4輪

通年


青軸、赤軸(茶褐色)30cm以上
花軸は通年枯れない

乾季の無い多雨地帯

季節感がなく、温室では通年開花し続ける。 

Aurora, Quezon, Leyte, Samar, Mindanao島に良く見られる。

leucaspis


20-50輪

2カ月

Long leaves


青軸
30cm以下
開花終了後に枯れる

年間雨量大
花色、リップ色多様

多輪花で終了すると花茎は枯れる。

多様なリップ色が特徴であるが、市場でのこれらは台湾での改良実生種の可能性が高い。

産地が確定しない。台湾での人工交配による改良種の可能性。

aparri


3-5輪

1-2カ月

青軸

15-20cm

明確ではないが、やや乾季11-3月がある

輪花数はそれほどでもないが開花が終了すると花茎は枯れる。

Aparri (Luzon島北部)

rosea


3-5輪

1-2カ月

short leaves


赤軸、10-20cm

乾季と雨季が明瞭にある

開花期が明瞭。日本国内での開花期は早春が多い。

Luzon島北西部

             

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