ページ目次
植え付け(開封時の状態)
病害虫予防処理
ウイルス病
コルク・ヘゴ・バスケット植え
ミックスコンポスト植え
植え付け後
難移植種
植え替え
コンポストの変更

植付け(開封時の状態)

 国内で2-3年育成され環境に順化した株を購入した場合、冬季などの休眠期を除き、一般的には直ちに鉢から取り出して根を整理し、病害虫防除処理をした後、新しいコンポスト(植込み材)に植え替えます。これは根の状態を調べ、枯れた根や腐食した根を除去することと自分の栽培環境に合わせたコンポストに移し替えるためです。

 一方、海外から輸入する株はベアールートで入荷します。ベア‐ルートとは全てのコンポストを取り除いて根をむき出したままの状態を言います。日本へはミズゴケやコルク付けのままでも輸入できますが、海外特にUSAではポット植えでの輸出入は禁止されており、東南アジア輸出業者の出荷方法や検疫もベアルートが一般化しています。

 東南アジアからの直輸入株は、支持体から株の取りはがし、葉や根の病痕等の整理と、梱包、検疫および6−7日程度ダンポール箱に詰め込まれた搬送などの過程を経て入荷するため、受け取った時点で葉はしな垂れ、ほとんどの根は乾燥して干からびた状態となっています。現地栽培業者の品質は山採りであっても、1年程度は自分の農場で栽培した株を出荷するため比較的問題が少ないのですが、現地採集者から仕入れたのち、すぐに販売するトレーダーの株に至っては、段ボール箱を開け包装紙を外した途端、これでも商品かと絶句する光景にしばしば出会います。


1.段ボールから取り出した直後の胡蝶蘭原種(左写真はEMS、右写真はハンドキャリー)

 写真1(左)は6日かかって海外から入荷した胡蝶蘭原種を梱包箱から取り出し並べたもので、すべての葉はしな垂れており、根周辺はミズゴケが巻かれているものの根の部分をもって株を立てようとしても立ちません。現地での支持体あるいはコンポストから取り剥がしから1週間以上経過しているものと考えられます。

 輸入株の移植で直面する深刻な問題は、開封時点で軟腐病などの細菌性の病気が発生していたり、特に茎の先端部や根元が罹病している場合です。胡蝶蘭は葉や根自身の一部が傷んでいても回復できますが、単茎性であることから、先端部の茎や新芽が細菌性の病気に罹っていると致命的となります。温室やサンルームなどで栽培する場合は薬品の適切な取り扱いと処理方法により稀に回復することもありますが、ホームラック等の室内栽培では順化経験の豊富な人でなければこれら病気の進行を止めるのは困難です。この環境では東南アジアのトレーダーからの直輸入は控えた方が無難です。写真1(右)はハンドキャリーで持ち帰ったものです。この場合、支持体からの取り外しから3日程度となり、明らかにハンドキャリーの方が葉や根がしっかりしており、弱まっている印象はありません。根をショートカットすることを止めるように指示もしたものです。

 写真2-1はそれぞれ輸入直後のフィリピンのトレーダーからの胡蝶蘭を示すものです。写真左および中央は健全は根は1本もなく、すべてショートカットされ、1週間の輸送でその根も乾燥したり干からび、また一部は死んだ状態(写真中央)です。右端写真は中央の葉の水浸状のシミのある箇所が細菌性の病気に犯されているものです。右端写真のような株は、その葉の付根から数ミリの位置で即刻切断しなければなりません。写真の例では最も若い葉のほぼ基部近くまで病気が進行しているため、このまま一晩放置すれば手遅れとなります。また病斑部を少しでも取り残したならば抗生物質の特殊な処理を除いて助かることは絶対にありません。また写真1(左)や写真2-1のそれぞれに示すような状態の株はいずれも茎が垂直となるポット植えでは再生できません。写真2-2には輸入直後のP. lueddemanniana(写真左端と中央)とP. fasciata(右端)をミズゴケで根を巻いてヤシガラマットで丸めたものです。葉は相当の個所で傷み病痕があります。

 直輸入原種株の順化技術とは、このような株を如何に再生するかにあります。これは国内の購入においても根が傷んでいた場合には、本ページの手法に準じた処理が必要となります。


2-1.輸入直後の株の状態(左P. schilleriana、中央P. aprodite、右P. amabilis)

2-2. 輸入直後の株のヤシガラマット取り付け

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病虫害予防処理

  海外からの国際宅急便は午後遅くに自宅に到着することもあり、多数の株を購入した場合は、とりあえず到着日は室内あるいは温室に1晩置き、翌日植え付けをせざるを得ない場合があります。筆者は写真2の右端写真のような1晩放置すれば手遅れになる病気のことを考え、到着した荷物は直ちに開けて株を取り出し、新聞紙を広げた上に重ならないように並べながら病気の有無をチェックし、後述の薬剤を散布した後、扇風機で微風をあてながら1晩置きます。症状がひどい場合は後述の一連の処理を深夜であっても行います。このような処理が済めば植え付けは翌日であっても問題はありません。

 植え付け前処理は、まず細菌(バクテリア)病群と糸状菌(カビ)病群に対する予防処置から始まります。規定値に希釈した薬剤を開封後直ちに、すべての蘭の葉や根にスプレイします。作業を簡単にするために薬剤を加えた水をバケツ等に入れ、蘭をまとめて漬ける方法も考えつきますが、ウイルス対策上この手法は避けなければなりません。スカスカとなった褐色の根、黒く変色した根は切り捨てます。この場合ハサミは株ごとに携帯ガスコンロ等で焼炎殺菌し、手は薄手のゴム手袋をしておれば、株の処理毎に対ウイルス剤(レンテミンや第三リン酸ソーダ)に手袋を浸します。乾燥して干乾びたような外観の白い根は再生する可能性があるため残します。通常は出荷段階で根はかなり整理されており、黒く変色した根は少なく、あるとすれば輸送過程で発生したもので、大半は白く干からびたような根となります。これらは残します。

 出荷段階で植物検疫のため病害虫防除処理が業者側で行なわれているのに、1週間程度しか経過していない段階でなぜ再度受け入れ側での殺菌処理が必要なのかという疑問をもたれるかも知れません。筆者の経験から2つの理由があります。一つは梱包を開けた段階で一部(2‐3%程度)に進行中の病害が時折見られること、二つ目は、病状は一見治まっているように見える、例えば黒斑状の病痕であっても、搬送で弱体化しており植え付け後に再発する可能性があり、またその際、東南アジアで一般的に用いられているベンレート(輸入国側で認可されていない農薬を出荷のための病虫害防除薬として使用することはできない)に多くのカビ病菌は耐性をもっており、ベンレートとは異なる薬品での処理が必要であることが挙げられます。

 植え付け前の処理として、細菌とカビに対する効能のある2種類の殺菌剤を用意すれば、どのメーカーのどの薬が特に有効であるということはないようです。しかし筆者は前記理由からベンレートは使用しません。例えば下記の組み合わせのいずれか一組を規定希釈で使用します。それぞれの組み合わせの前者が糸状菌用、後者のストレプトマイシンが細菌病用薬剤です。これらは相手国の出荷日に合わせて到着直前で用意しておきます。

1.トップジンMとストレプトマイシン剤(進行中の病気が一部に見られた場合)
2.ベルクート(イミノクタジンアルべジル酸塩剤)とストレプトマイシン剤
3.リドミル、ダコニール、スターナの混合液(株元の一部に黒いスス状様態がある場合)
註)ストレプトマイシン系はスターナで代用ができる

 ハンドキャリーによる輸入はともかく、EMS等で長期間湿気のあるダンボール箱に梱包されたまま入荷する場合には、前記したように開封した時点で、すでに軟腐病あるいは細菌性の病気に罹っている株をしばしば目にします。軟腐病か否かは、特有の匂いで分かります。軟腐病は強い匂いがあり、一般の細菌性やカビ系の病気は匂いはありません。細菌性疫病株はその部位と周辺を含め直ちに切り取ります。経験上、100株程入荷すれば、軟腐病はまれですが、まず数本の株は細菌性の病気に侵されています。また写真2の右端写真のようにすでに大きく広がった細菌病の葉は、発芽点から数ミリ残して切ります。このような状態では部位に薬剤を散布して残したとしても効果は期待できません。切り取った後、羅病の蘭を隔離し、規程希釈の数倍濃度の前記1-3の薬剤を切り口に塗布あるいは規定希釈の液中に2-3分含侵した後、株を逆さに吊るして微風を当てて乾かします。

 写真3は頂芽に細菌性の病気があり、葉の大半を切り取った後のP. sanderianaの写真です。残った芽が茶褐色なのは本種の葉の裏面の色です。カットした断面に薬剤を塗っています。これで再生可能かどうかは1-2か月経過しなければ分かりません。


3.P. sanderiana病害処理

 上記以外の方法としては筆者が行う対応ですが、注射器に抗生物質(オーレオマイシンなど)の原液を入れ、部位の周辺(境目)を注射針で突きながら液を着けます(こぼすと言った感じ)。よって4‐5滴程度の使用です。24時間ほどで病斑部は黒変し進行が止まります。進行が止まれば部位を切り捨てカビ病用の薬剤を切り口に塗ります。

 処理後は、風通しのよい(扇風機の微風を3m程離した位置から24時間与える)場所に置きます。これで進行が止まらず葉が次々と腐って落ちるようであれば廃棄する以外ありません。移植の失敗のほとんどは植え付け1‐2週間以内に罹る病気(すでに入荷時点で原因をもっていたもの)と、入荷時状態から再生する1‐1.5ヶ月の間(弱体化した状態での環境や管理に依存するもの)です。しばしば失敗するケースは、細菌病であるにもかかわらず、糸状菌病と思いベンレートやダコニールのみを使用して手遅れになることです。その逆も起こりえます。ベンレートは蘭の万能薬のように扱われているそうですが、入荷時の被病の多くは細菌性(視覚的に確認できる程の病班が、搬送の1週間程で発症するのは大半が細菌性)でありベンレートは効果がなく、この薬品だけの散布では防ぐことはできません。

 検疫対象となるため病斑部は通常、業者の方で切り取って出荷していますが稀に葉の先端部が黒変しているものは、多くは疫病や炭そ病などの糸状菌病であり、部位と部位から数mm程度内側の位置で切り捨て、筆者は上記のストレプトマイシン液剤あるいは水で殺菌剤の1つ(上記の糸状菌薬剤で可。疫病ではビスダイセン等)を溶いてペースト状(薄めない原液のまま)にしたものを切り口に直接塗ります。輸入時の株には殺虫剤は使いません。これは輸出入検疫のため出荷元で殺虫済みと考える(一度だけカイガラムシが付いていたことがありますが)からです。その後の管理は軟腐病と同じです。規定希釈ではなく原液を切り口に塗ることに意味があるかどうかは分かりませんが原液でも問題はないということです。

 すでに病状は止まっているものの、黄褐色に変色した古葉や、葉先枯れ病などがある場合にはその部分を切り落とし、切口には前記ペースト状の薬剤を塗ります。葉や根を切った鋏やナイフはウイルス対策上1株毎に火炎殺菌を必ず行い併用することはできません。切り取らないで部位に薬を塗る方法もありますが、冒された部分の回復(緑化)は不可能であり切り取った方が安全です。この結果、大株を購入した筈なのに小さな葉だけを2-3枚残し小株になってしまうこともしばしば経験します。

 潜在的に病原因がある場合、植え付け後、数週間程で多くが葉の先から、あるいは葉元が褐変・軟腐化して行きます。壊疽病(ウイルス)と思われるものも稀に見られます。搬送時の傷や弱体化した状態に潅水を行うことで細菌やカビが侵入し易くなったと考えられます。このため移植後数日間は潅水に注意します。この注意とは潅水を控えることではありません。葉も根も乾燥状態で入荷し、この状態に十分な水分を与えなければ光合成もできず、やがて葉が落ち枯れていくのみとなります。株の芯の部分に水が溜まらないように潅水を行い、水がかかってしまえば、ティッシュでコヨリを作り、水を吸い取ります。これが面倒な人は株を逆さになるように吊るして育てます。逆さにしたため新芽や根が出ないことはありません。通風は必須で、扇風機の微風モードで3-4m離れた位置から風を終日当てます。この際、夜間の高湿度が重要で湿度が低く(60%以下)ても葉が乾燥しすぎて好ましくありません。高湿度が必要であることと、水を葉や葉もとに溜めてはいけないこととは矛盾するようですが、夜間の大気の高湿度化は葉からの水分の蒸散を抑え呼吸を活発にする一方、葉に留まった水滴は病気の危険性があるためです。

 以上から、順化対処法に共通する処理を整理すると下記の4点となります。

  1. 罹病の病斑部はその周辺を含め切り捨てること。見栄えが悪くなるからと言って部位に薬剤を塗って病斑部を残そうとしてはならない。
  2. カビ系と細菌系病気の違いを知ること。分からなければその両方に効果的な薬を使用するか、両者に有効なそれぞれの薬剤を混合して使用する。
  3. 切り口(株全体ではない)は規定希釈ではなく原液あるいは高濃度な薬剤を塗る。切り口のみへの原液塗布程度で枯れることはない。
  4. 処理後十分な通風を施すこと。

 1−2ヶ月程経過し安定していれば他の株と一緒にします。安定するとは、葉枯れの進行がなく新葉の付け根の部分が伸長している(入荷時期に関わりなく最低温度を18C、昼間25C程度あれば移植後まもなく成長を始める)状態を言います。伸長部分の色は黄緑色をして新鮮で艶があるため容易に分かります。またごく僅かに新芽がのぞいている場合も同様に伸び始めていることが観測されます。新芽の成長よりも根冠が先に伸展するすることもあります。いずれにしてもこのような兆候は移植の最大の壁を一つ乗り越えたことになります。逆に1-2ヶ月経っても、根も葉も変化しないのは温度や湿度不足あるいは潅水過多等の可能性があります。

 根がダメージを受けている株の植え付け後には、P.giganteaなどを除き、必ずと言って良いほど順化までの数か月の間に古葉が1枚か2枚、急速に黄変し落葉します。破損した根の状態と葉数(吸水と蒸発)とのバランスを保つために自ら葉を落とすものと思われます。病気ではありません。

 一方、原種の中で小型の種(P.gibbosa, P.lowii, P.minus、P.appendiculataなど)は時折、小さな板やヘゴに着けられたまま入荷することがあります。これは根を直ちに剥がし植え換えを行わないで、コンポスト部分をミックスコンポスト(ミズゴケは水分過剰となるので避ける)の上に置いて根が完全に隠れるほどの植え込みではなく、照明が弱く根に当たる程度にして、そのまましばらく育て新しい葉や根が出たところで板からはがして移植すれば、葉が次々と枯れ落ちるような症状はなくなり移植成功率が高くなります。むしろこれら小型種は移植適応時期(花後)があるようで、ベアールートによる入荷よりも、何らかの板に活着している方がその後の順化が楽になります。

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ウイルス病

 以上のような輸入株の処理に対し、ウイルス病に関しては何ら防御対策をしている訳ではありません。ウイルス感染を心配するのであれば、同居する前にウイルス検定用試薬でチェックする必要があります。通常ウイルス検定を行う栽培者は少ないと思いますが、もし貴重な蘭を所有し場所の制約から近くに置かなければならない場合は検定による確認も必要となるでしょう。

 過去、東南アジアやUSAから輸入した胡蝶蘭(P.equestris v. alba, P.javanica, P.inscriptionensis)でCyMV(シンビジュウムモザイクウイルス)を検出しており、今後ともウイルス感染の可能性が減少するとは思われません。ウイルス検定までは無理という栽培者は、明らかにウイルスのような症状が葉に出ているものは無論のこと、移植1年間は(室内や温室の1箇所に)隔離して観察し、新しい葉が出るものの古い葉が落ち、全体の葉数が2‐3枚程度で一向に増えないとか、開花した花片が縮れていたり、リング状のシミのような模様が葉に出ている場合はウイルス感染を疑うべきです。一方、花の奇形(花弁数が完全ではない)は、必ずしもウイルス感染とは限りません。初花、季節外れの花にはしばしば見られます。また無菌培養などでのホルモン剤投与による奇形も考えられます。1年間待ち、2年目の花を確認して異常が再発していないのであればそれで良いと思われます。初花と異なり2年目には異常がないケースがしばしば(過去P.amboinensis, P.fasciata, Pdelicataなどで経験)見られます。

 入荷直後の状況がひどいため、ダニやナメクジの傷跡による変形や、栄養不足のためか葉緑素の濃淡の不規則な模様をもつものがありますが、これらは必ずしもウイルス病ではなく、新しい葉や花が形成されれば分かります。ウイルス感染がなければ、通常の栽培で新しい葉は新鮮な色で成長します。3−4年で全体の葉が入れ替わります。一見ウイルス病との外見上の区別は難しい症状が多々あります。現状では経験を積んで判断する以外ないようです。

 また輸入株のなかに、葉の表面の所々が退緑色化して葉肉が細く凹み、その部位が白、茶褐色あるいは黒変している株が入荷することがあります。この陥没斑はえそ斑病(ウイルス)の可能性があります。この症状は入荷時になく、移植後しばらくして出ることがむしろ多いと思います。それまで潜在していたウイルスが環境の急激な変化で発病したものです。ウイルス検定すればよいのですが、それができない場合は隔離して新芽や花に異常がないかを調べた方が良いと思われます。

 以上のような実情ではあるものの、問題点を恐れていては入手が出来ませんし、日本的商品感覚で高品質の蘭を期待しても海外からの原種の入手は困難です。筆者は、栽培とは病気との闘いであり、その勝利の結果として開花を得るのだと考えています。それでも品質第一というのであれば、台湾やUSAにおいて無菌培養された実生か、国内で順化した株を得るしかありません。

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コルク・ヘゴ・バスケット植え付け

 ヘゴやコルクでは、根を広げて直接これらに密着させ、根の一部分を小さく丸めたミズゴケで抑え、その上からビニール紐(ビニタイ)で縛ります。これを2-3 箇所行えば終了です。ミズゴケをまずヘゴ板やコルク上に置き、その上に根を置いてさらにミズゴケで押さえビニタイで巻くのは好ましくないと思います。根とコルクの間にミズゴケ等の水分補給材や緩衝材が入ると、コルクへの活着が遅れます。ビニタイは活着後(約1年後)取り外します。コルクに取り付ける時点の根はコルクに活着することはありません。それらの根から新しく分岐した新根あるいは主茎から新たに生える根だけが活着します。これは支持体に活着する細毛が、成長する根冠の周りにのみ生えており、古い表皮には活着根が発生しないためです。


4a 梱包を開け、ヘゴ棒に取り付けた直後のP. stuartiana

 株は自然界では上向きで着生している種であっても通常逆さにして取り付けます。潅水で茎の頂芽に水が溜まらないようにするためです。一方、バスケット植えの場合は、根をミズゴケで柔らかく巻き、バスケット中央に置いてからバスケットの木枠に沿ってミズゴケを詰めて行きます。横にしても株が落ちない程度に固めます。バスケットは斜め吊りとします。茎が垂直に伸びるP.cornu-cervi系では、健全な株であれば、素焼きやプラスチック鉢にクリプトモスやミックスコンポストでも問題はありませんが、相当傷んだ株であれば、新芽が成長するまでは、たとえP.cornu-cervi系のように立ち性の種であっても茎が下向きになるような取り付けを行います。立ち性の株(例えばP. lueddemanniana系)を下向きに取り付けそのまま放置すると1年ほどで頂芽は上に反り始めます。成長に問題はありません。写真4には輸入株をコルクとヘゴ(右端)に取り付けた直後の写真をそれぞれ示します。


4b.コルク(あるいはヘゴ)板取り付け

 左端の写真はP.speciosaと言われるP. speciosa f. christianaの原種です。趣味家がしばらく栽培していたため数本の緑色の根があります。またP.kunstleriは、一番奥の古葉は野生固有の病根がありますが、2枚の葉の状態は非常に良いので1年ほど栽培された可能性があります。しかし根はほとんどが干からびた状態で、白や緑色をした根はほとんどありません。P.minusは1-2年木の板に活着したものが入荷しましたが、入荷後直ちにヘゴ棒に移植した状態です。通常、小型種は入荷時の板に付けたまま板の部分を半年程度ミックスコンポストに埋めて、新根や新葉を待ってから移植するのですが、写真のように葉や根の状態が良かったため、入荷直後にへご棒に移植したものです。右のP.mariaeは山採りからあまり時間が経っていないものと思われます。根がほとんど無く(写真1の中央写真のような状態)、1-2cm程度の干からびた2-3本の根があるだけです。葉も傷だらけですが、これだけしっかりしていればほとんどが2-3か月で新しい根を発生するものと思われます。このような状態の株を成長させるには夜間は80%以上の湿度と、冬季でも18C以上の最低温度を確保することが条件となります。また共通していることは、全て株を逆さ吊りしていることです。このことから潅水をしても頂芽に水がたまることはありません。

 写真5はヘゴ棒に取り付けたそれぞれの原種です。取り付け直後のものと6か月経過後(根がヘゴ棒に張り付いている株)のものが混ざっています。取り付けはコルクと同じで、まず根を直接ヘゴに密着させその上にミズゴケを置いてビニタイで縛っています。2‐3か月程度で株から新しい根が生えこれがヘゴ棒に沿って活着しながら伸長していきます。


5.ヘゴ棒取り付け(左写真:P. delicata、右写真:P. amabilis


6.ヘゴ棒取り付け(左写真:P. fasciata、右写真奥:P. stuartiana、手前P. equestris Ilocos

 写真7には野生種の植え付けから2年を経過したP.fuscata(左)とP.maculata(右)のバスケット植え(斜め吊り)を示します。古い葉と新しい葉が混在していますが、それぞれ野生種の入荷直後の葉の状態と、新しく成長した葉との違いをよく表しています。

 左のP.fuscataは入荷後2年を経過したもので一番大きな葉が入荷前からの葉で、多くの傷病痕が見られます。一方、5枚の中小サイズの無傷の葉はいずれも入荷後の新葉です。また右のP.maculataはこの種としてはかなりの大株ですが、同じく2年を経過し、胡蝶蘭には珍しい新しい株が側芽から発生し、それぞれ4枚程の新葉が入荷後に発生しています。右下の葉が古葉です。

 植え込みは、まずバスケットの底に薄くミズゴケを敷き、そこにコブシ程度の大きさに根をミズゴケで巻いた株を置いて押しつけながら、バスケットの四隅にミズゴケを詰めていきます。株をバスケットの中心に置く際に、吊るす方向と葉(株)の方向を考慮します。通常は古い大きな葉が下に垂れる方向とします。バスケットの表面が平らになるように押さえるため、ミズゴケがバスケットの隙間から溢れますが、これも中に押し戻し、体裁を整えれば植え込みは終了です。押さえ方で仕上がりが固くなったり柔らかになったりしますが気にすることはありません。筆者は比較的固めに植え付けます。

 野生種の葉の状態はそれぞれの古い葉に見られるように到る所、傷病根だらけですが3年から4年で全て新しい葉に入れ替わります。写真に見られるように、室内で育成した株は、定期的な殺菌・殺虫剤の散布により病気に侵されることがないため、葉は無傷で成長します。


7.野生種の生育

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ミックスコンポスト植え付け

 ミックスコンポストとプラスチックポットあるいは素焼き鉢の組み合わせたものに輸入株を植えつける場合は、損傷のない立ち性の株に限られます。鉢底石を適度の厚みで入れ、あらかじめ十分水を吸収させた(数時間前に水に浸し、その水には市販の活力剤を規定希釈で入れておくことが好ましい)前ページの2種類(セラミックスとバークあるいはミズゴケとクリプトモス)のコンポストを混ぜたもので植え付けます。筆者はこれまで直輸入株を茎を立てた状態で鉢に植えつけた種はP. cornu-cervi系、P. amabilisおよび一部のP. equestris以外には、前記したように安定性や病気対策上から行っていません。

 写真2に示すような根のない状態の株ではバスケットは難しく、コルクやヘゴに縛り付けるのが良いのですが、数十株となるとコストが問題となります。コルク以外ではクリプトモス70-80%、ミズゴケ30-20%のミックスコンポストを少ない根とその周りに巻き、5cm程度のボール状にした後、頂芽を下にして寒冷紗あるいは鉢底網で巻いて吊り下げる方法や、前記ボール状のまま、適度なサイズのヤシガラマットの中に置き、株を下向きにして包む方法(写真8)がコスト、安全面では優れています。下写真はP. pallens(左写真奥), P. luedemanniana(それぞれの写真手前), P. equestris(写真右奥)で100本以上の、フィリピンミンダナオ島ダバオからの入荷1週間後の状態です。取り付けは2009年4月11日のものです。発送から入荷までに10日ほどかかっており、写真1左の株よりも弱っていたため張りがまだ戻っていません。根をミズゴケに埋めてコブシ大にし、これをヤシガラマットで包むようにして円筒形に丸め3か所をビニタイで縛ったものです。円筒形となったマットの割れ目から株が飛び出している格好ですが、マットが株元に触れるほど密着する場合は、株元周辺のマットをV字型に2cmほどハサミで切って(写真8左端)花茎が出られる開口部を作ります。丸まったマット内の上部と下部は空洞となっており、ミズゴケの使用量は多くはありません。古い葉の数枚が落下した後、3-5か月ほどで新しい根や葉が伸長し始めると思われます。

 写真9はヤシガラマットとミズゴケに取り付けた株の開口部を示します。根をミズゴケに埋め株元の一部を出して上下でビニタイで縛ったものです。左端は植え付け直後のもの、中央および右端は植え付けから5か月後のものです。中央では植え付け後に発生した新芽が、また右端は新しい根がそれぞれでており、このような状態になればそのままでも、取り外して植え替えもできます。

8.ヤシガラマット・ミズゴケコンポスト吊り

9. ヤシガラマット・ミズゴケの開口部

 写真10は3号素焼き鉢に植えつけたBSサイズのP. fasciataです。ミズゴケとクリプトモスを50%混合したもので、斜め吊りとしています。ヘゴ棒が不足したための第2の選択です。スペースを取りますがヘゴ棒よりは成長は良いようです。


10.素焼き鉢斜め吊り(冬日を浴びている状態)

 輸入直後の株の植付けのためのコンポストはそれほど多くの選択肢はありません。一般的に利用されるミズゴケと素焼き鉢の組み合わせは、写真1(左)に見られたような状態の株には適しません。またBSサイズで葉が垂れた株は鉢を吊り下げなければなりません。株の根元を持って立てた場合、葉が固く垂れない状態であれば各種のコンポストの組み合わせで植え付けても問題はありませんが、新芽や根が出るまでの期間はここにあげた方法以外はいずれもリスクが高いと思います。

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植付け後

 多くの輸入原種のBSサイズでは、植え付け後の管理に問題がなければ、3-4か月で根あるいは若葉が伸長したり、新根あるいは新芽が現れます。それに対して古い葉の1-2枚が、数か月以内で黄色に変色し、やがて落葉します。輸入直後の切断されて乾燥した根では葉からの水分蒸発のバランスを保つことが出来ず、古い葉から順次落してしまうのではないかと思われます。また新根や新芽が十分に伸長した4-5ヶ月後に再び古い葉が黄変し落ちることがあります。これらは病害虫による症状でないため問題はなく、落葉と共に新しい芽が必ず出現します。しばしば大半の入荷時の葉が黄変して落ち、小さな若葉にすっかり入れ替わり、大株が小株になってしまうこともあります。入荷時の根の状態が悪ければ悪いほどこのような状況となります。

 一方、植え付け後、数か月で花をつけることがあります。10-11月に入荷したP. amabilisP. schillerianaなどでしばしば見られます。この場合、早期に花を摘まなければ作落ちの可能性が高まり、花後は新しい葉を2-3枚つけるだけの小さな株となってしまいます。筆者は入荷後数か月しかたたない株の開化は、1花見て直ちに花茎を基から切り取ります。

 写真11は10月末に入荷50日後の、クリプトモスと僅かなミズゴケとのミックスコンポストに植えつけ、これを鉢底網で巻いた株の新芽(左)と新根を示すもので、このような状態になれば海外からの入荷株植え付けの難関を乗り越えたと言えます。

11.クリプトモス植えつけ後、新芽および新根がでたP. equestris(Apari)

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難移植種

 栽培難易度についてそれぞれの種を表1に示します。表の分類は多分に栽培環境や手法に依存するため絶対的なものではなく、一つの目安と考える必要があります。ここで高難度は初級者あるいは温室やワーディアンケースのない場合は栽培を避けるべき種、また超難度は初心者だけでなく、相当のベテランでも購入を控えるべき種となります。

表1 栽培難易度
栽培難易度
備考(難易度の目安)
容易
amabilis, amboinensis, aphrodite, bellina, borneensis, chibae, cornu-cervi, equestris, fasciata, fuscata, kunstleri, lamaelligera, luddemanniana, pallens, pantherina, parishii, philippinense, pulchra, sanderiana,, schilleriana, stuartiana, sumatrana, tetraspis, venosa, violacea, viridis
普通
bastianii, celebensis, fimbriata, florensensis, hieroglyphica, inscriptiosinensis, javanica, lindenii, lobbii, mannii, modesta, speciosa,
高難度
appendiculata, cochlearis, corningiana, gibbosa, gigantea, lowii, maculata, mariae, micholitzii, (hainanensis, honghenesis, stobartiana, wilsonii)
成長が遅い。細菌性の病気にかかりやすい、(低温栽培が必要。また休眠期の移植は困難)等
超難度
doweryensis(野生種)
bare-rootからの移植成功率は20%以下

 落葉性種、小型種、また育成が困難というよりは成長が遅く開花までに時間を要する種は、高難易度に含めています。栽培容易および普通に分類した種は特に温室相当あるいはワーディアンケースがなくても良いと思われるものです。P. doweryensisは実生株がほとんどなく、台湾およびUSA(台湾からのフラスコ苗と思われる)を除いて東南アジアからの輸入株は全て山採りと思われます。コルクやヘゴへでも移植成功率は20%以下で、マレーシヤ、シンガポール、USAのナーセリとの議論でも最も良くて60%の成功率とのことです。この状態では自然採取による絶滅の可能性があり、実生苗が近年台湾で成功しているためこのルートからの入手が望まれます。

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植え替え

 コルクやヘゴ板を除き、胡蝶蘭の植え替えはおよそ1-2年に1度行います。前ページ構成比のバークミックスコンポストでは2年程度まで問題はありませんが、ミズゴケやクリプトモスの場合は1年毎の植え替えが好ましいと思われます。これは植え込み材の耐用性からだではなく、特に新しい環境下においては1年での交換は古くなった根の整理、コンポストからはみ出した根を取り込む、またコンポストにこびり付いた置肥の残骸を捨てる、さらに根の成長を見て、1年間の潅水が適切であったか否かを確認することなどを目的として行います。植え替えの際、黒くなった根や、指で挟んでふわふわする根は、硬くなる部分の境まで切断します。変色した葉も除くか切り捨てます。根の整理については、すべての蘭に共通した処理となります。

 蘭全般について植え替えの時期は春先が好ましいとされます。一方、最低温度を18C以上に保つことができる胡蝶蘭用の温室やワーディアンケース栽培では、特に決められた時期というものはなく、真冬を含めていつでも問題はありません。ただしP. cochlearisP. doweryensisやparishii亜属は例外で、4-5月が植え替え適期となります。成長が鈍い元気が無いと感じたら生理障害や根腐れと考え、季節に関わらず直ちに植え替えが必要です。

 真冬にインドネシアやマレーシアから送られる蘭を順化できる人であれば、植え替え処理は容易と思われます。植え替えでは根を切断することがあるため、必ず規程希釈の病害虫防除剤を散布します。これは前記輸入株の植え付けに用いた薬剤と同じものでよく、それに殺虫剤を加えたものです。ウイルス感染対策上、殺菌液のなかに株を次々と漬ける殺菌法はここでも行うことはできません。スプレイでそれぞれに吹きかけます。また根を切った鋏はいかに面倒でも、株毎に火炎殺菌を行います。

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コンポスト(種類)の変更

 定期的な植替えでコンポストの種類を変更することは好ましくないとされます。あえて変更を行う理由は成長が芳しくない場合や他の種との潅水タイミングが合わないことなどが考えられます。成長が思わしくない(葉に勢いがない、新しい葉は生えるが古い葉が枯れ、常に3-4枚程度から増えないなど。Aphyllae, Parishianae亜属など本来葉数の少ない種は除く)場合は、直ちにコンポストを新しいものに代えるか、これまでとは異なるコンポストに変えます。この場合、古いコンポストを完全に根から洗い流します。古いコンポストが根に付着していると、順化が遅れると言われます。これは根が出すフェノール成分や酸化したコンポストが残ることになるためと思われます。ミズゴケからミックスコンポストあるいはその逆であっても根に付着した交換前のコンポストは可能な限り取り除きます。ただし活着してコンポストがこびり付いたものは、良く洗浄するだけでそのままとし、根を傷つけない方が良いようです。

 それまでミズゴケあるいはミックスコンポストで育てた長い根を持つ株をコルクやヘゴに取り付ける場合、それらの根はコルクやヘゴに活着しないためビニタイで縛ります。数か月で茎の基部あるいは根の一部から新しい根が発生し、それがコルクに活着します。また成長が良くない株の中にはフザリウム病やウイルス病の可能性があるため、他の蘭とは隔離して上記の処理を行い、様子を見る必要があります。コンポストを変えて半年程経過しても新根や新芽が生長しない場合は、虚弱体質かウイルスの疑い濃厚であり、いずれも栽培はあきらめた方が良いと思われます。ただし、種をとるため受粉して子房を半年以上付けた株は1年間は作落ち状態(成長が遅いか、株が小さくなる)になることがあり、これは病気ではありません。

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