ページ目次
原種の入手
山採りと実生
購入
旅行先からの持帰り
現地買い付け
原種/野生種の価格
希少種価格
購入の一方法
直輸入の問題点
入手難易度
ラベルミス
ウイルス病

原種の入手

 本ページでは個人が直接海外ナーセリから原種あるいは野生種を入手する方法について解説します。

 胡蝶蘭は絶滅危惧種として保護対象植物(CITES Appendix II)に含まれ、輸出国でのCITES申請による許可がなければ海外からの入手はできません。これが免除されるのはフラスコ苗か、2007年6月に14回ワシントン条約締結国会議で提案された下記の条件を満たすものとされています。

a) 人工的に繁殖させた標本であることが容易に認識でき、採集した結果としての機械的損傷や強い脱水状態、ひとつの分類群と1つの貨物の中で不均一な成長状態又は異なる大きさと形状、葉に付着した藻類又はその他の葉上生物、又は昆虫その他の有害動物による損傷など、野生から採集されたことを示す徴候がない。

b) 花が咲いていない状態で輸送する時、標本は20以上の同一の交配種が入っている個別の容器(例えば厚紙製の箱、箱、クレート、CCコンテナの個別の棚など)から成る貨物で取引しなければならない。各容器内の植物は、高度の均一性と健全性を示さなければならない。貨物には送り状などの文書を添付し、そこに各交配種の植物の数を明示しなければならない

 a)およびb)が定義する株は、いずれも取引される株が野生種(山採り)ではないことを示すものです。通常趣味家が購入する単位は多品種少量であり上記の条件を満たすことは困難で、「免除を受ける資格の有無が不明瞭な植物には、適切なCITES文書を添付しなければならない」が一般に適用され、山採りか実生かに関わらず現地業者からフラスコ以外で購入する場合は、すべての株にCITES文書の添付が義務づけられるのが現状です。

 野生種について東南アジアのそれぞれの国では、国立公園内や保護地区等での採取が禁止されています。胡蝶蘭はパフィオと異なり高価で取引されることが少ないため、違法な採取や輸入等のトラブルはあまり聞きません。インドネシアでは、自然開発による伐採地域内において政府の許可により、野生採集を行うことができたり、マレーシアでは保護地域外での採取が認可された業者がいると聞きます。我々が手に入れられる山採り株はそのような採取によるものに限られます。近年では山採り株(業者ではWildあるいはJungleプラントとも呼び、M/P:マザープラントと呼ばれる種親株も主に山採り株)の入手はまず困難であり、山採り株の高芽や分け株(Keikis)あるいは現地のナーセリで実生化された苗を入手するのが一般的です。

 それぞれの国では、海外に蘭を輸出する場合はナーセリに対して、輸出株が栽培品(Grown Orchids)か繁殖品(Propagated Orchids)であって山採り(WildあるいはJungle Plant)ではないことをCITES申請と共に書類で宣誓(申告)させています。よってほとんどの東南アジアの国々では、InvoiceやCITES書類にWild Plantと銘を打って輸出することはできません。


1.P. giganteaの野生種(8株)。自然での古い葉と、栽培後の新しい葉が混在している。

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山採りと実生 

 胡蝶蘭原種(普通種)の取引価格は、生産国での海外向けが2010 - 2011年度において、米ドルでおよそ6 - 30ドルの範囲となっています。ナーセリによっては前記a)に示す状態の山採りと思われる入荷株が多数見られます。しかし受け入れる側ではそれが露天栽培株か山採り株かは推測できません。このことは前記したナーセリが販売する蘭が、Wild Plantではなく、栽培品か繁殖品であるとする申告(Affidavit)と矛盾するのではと思われますが、繁殖品は高芽や脇芽あるいは実生株を意味しますが、広義な意味の栽培品は株の出所と栽培期間の定義が曖昧となっているため、このような売買もあり得るということです。一方、マレーシアのラン園の多くが自然に似せた人工環境をつくり栽培をしています。これらは栽培品なのですが、山採り株と外見は変わりません。

 例えばその国の中で販売する限り、つまり輸出をしない限り、何の規制もなく、一般のフラワーショップや露天商から購入することができます。おそらくその国民にとっては、日本で日本人が山野草を買う感覚と思われます。このような環境であるため、野生種と実生をそれぞれ国内向けと海外向けを分けてナーセリが栽培することはなく、販売としては同じ扱いとなっているのが実態です。現実には山採りランハンターが、それをそのまま輸出することを禁じているということです。よって輸出ナーセリでは実生栽培株と共に、1次業者から購入する株を一定期間農場で栽培し、輸出に当たっては栽培品(nursery growing orchids)として出荷がされています。

 人工栽培した実生株よりは、野生の方が神秘性を感じる趣味家が多いためと思われますが、野生株の方が実生株よりは若干高額で販売できるのを受けて、かって海外のカタログには敢えて「Jungle Plant」と謳っているものが見られました。しかしこれら山採り株の中から変種や花柄の変化を求めることは確率的に不可能です。胡蝶蘭原種が山採り株でなければならない理由はありません。野生種、実生および改良種すべてを同時に扱う業者でなく、現地の原種専門業者であれば山採りと実生は質的に変わりません。台湾など交配品も含めて販売する業者の原種とされる輸入株のなかには片親の「節」や「種」が異なる、あるいは改良品種との交配と思われる株が見られます。また培養時のホルモン剤投与の影響と見られる奇形がしばしば出現します。これは開花あるいはその実生を得るまでの数年間は分かりません。

 通常は実生株の方が選別された親同士で交配されており、野生種に対し差別化された株を得る確率が高まります。問題はこれらから得られる実生がはたして親と同じ形質を表現できるかと言う点です。株が野生として意味を持つのは交配を行う際の遺伝に関わる点です。野生種に見られる変種は突然変異であったり、排他的地域性のなかで自然に継代してきたもので高い固定率が期待できますが、現在多くの原種実生苗とされる品種は、個体差の範囲内に含まれる選別種であったり、多くのP. violaceaに見られるように地域差に関わりなく人工交配されたもの、あるいはP. bellinaのような異なる種間との交配が行われたものがあり、花形状(柄)についての実態は交雑種と同程度の低い固定率の株が多いように思われます。もし野生としての特質を保存・継承したいのであれば野生株間あるいは地域性も重視した交配による実生株間との交配がより確実となります。当然のことですが、野生種同士であっても自然交配がF1相当であれば、一方の特質が継承される確率は低くなります。

 USAや台湾に多い改良種は、特徴のある形質(主として花柄や花の大きさ)をもつ株や入賞株同士で交配を続け、その特徴を継承しようとしたものです。これは同一種間での交配であることから、その実生も純正種であることは間違いないのですが、花柄や色などの可視的な特徴の固定率を高めることは難しい問題です。交配から開花まで4‐5年を必要とする蘭で戻し交配を含め数代のラインブリーディングを続けることは時間的に至難なことであり、珍しい特徴があればある程、固定率は低いと思われます。それは熱帯魚のディスカスブリーディングに似て、苦労して稚魚を得たものの親と同じようなパターンをもつものは1%もいないことと同じ状況であろうと思われます。これに対してビジネス上の増殖であれば、原種の中で、たまたま出現した特徴のある株をメリクロンすることが行われます。メリクロン株から得られた苗がその特質を子孫に継承できるかどうかも花を見るまでは分かりません。趣味家が特徴ある株をその様態のまま増やしたいのであれば自身でメリクロン(花茎培養)を行う以外ありません。但しメリクロンで得る苗は元親以上でも以下でもなく、趣味家としては魅力のあるものとは言い切れません。

 よりホモジェニアス(混ざりのない)な株を手に入れたいのであれば、現地(野生生息国)の原種専門業者からの入手が必要です。この場合、広域分布をもつP. amabilis, P. cornu-cervi, P. violacea, P. equestrisなどは地域を明示して販売している繊細さが業者に必要です。さらに野生種と同等の原種にこだわるのであれば、日本国内の業者を含め、生息地域(あるいは仕入ルート)を語ることができない業者からは広域分布をもつ種は購入しないこと、また交配種も同時に自社生産・販売している業者からは信頼性の高い純正種を得ることは難しいことを理解すべきと思います。

 現在ほぼ全ての海外蘭園では、リレー栽培(フラスコ苗から開花株になるまで海外で栽培し、その後日本等の販売国が輸入して1年程で販売するシステム。栽培コストの削減を目的とします)向けの業者を除き、ビジネス上、主として自国内向けに交配種も同時に栽培しています。東南アジア国内では色鮮やかで大きな花を望むからです。このような蘭園においては、原種(Species)と交配種(Hybrid)を(カタログ上)分けて栽培しているところであれば、僅かながら交配種が混在する可能性もあるものの、余り問題は発生しません(筆者の経験では5年で2回、交配種が混じっていました)。

 写真2は左と中央写真が山採り株、右端写真が栽培株を示します。写真では見難いですが山採り株は病痕や傷が葉に多く見れられます。現地では、実生からの栽培以外にオーキッドハンター側で新しい葉や根が出るまで一旦ストックし、それらを蘭園が仕入れ、さらに1年以上栽培をしてから出荷するケースが見られます。左および中央の写真のような山採り株は先に述べたように直接輸出はできません。


2. Jungle株(左と中央)と栽培株(右)

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購入

 胡蝶蘭は付属書Iのパフィオ属とは異なり、大半の種が容易に入手できます。しかし、現在胡蝶蘭原種を、原種の系統を維持・保存することを前提にブリーディングしている専門業者はなく、海外でも2-3のナーセリのみで多くは改良種が混在しています。このため各国のラン栽培業者に常に接触し、特に変種については彼らが偶然に得たものの中から捜し求めるのが実状です。希少種(改良種としての希少ではなく自然の中から生まれた)に関しては栽培業者自身が所蔵している株だけでなく、同業者、知人あるいは顧客とのパイプを通した情報を基に交渉を委託することも時には必要となります。胡蝶蘭入手ルートの実情は下記に分類できます。

1.原種専門(インドネシヤ、フィリピン、マレーシヤなど)
      原種を専門に扱う業者は東南アジアに数社。自国の蘭のみを販売する点で種類が限定されることと、普通種のみとなる。よって購入は
  それぞれの国毎に行う。変種などを入手するにはカタログとは別に依頼する。
2.原種改良種(台湾、USAなど)
  選別された原種同士を交配し改良させたもの。原種本来の容姿とはかなり異なるものがある。
  また交配の系統が不明であることが多い。購入株によっては自家交配不和合性が見られ、他種との交配による選別株の可能性がある。固定率は不明。
3.原種調達(シンガポールなど)
  各国の原種を調達できる販売仲介業者。日本国内の価格を知っており一般に高価。
4.趣味家兼ナーセリ(各国)
  趣味家から発展してナーセリを始めた業者。Photo-Galleryに多くの写真があっても売り物ではないとする購入者側のストレスを助長する営業傾向がある。
  また原種としながらも、類似種との交配の可能性が高い。

 野生種およそ50種の内、15-20種程度は日本国内のラン園業者から、またそれに加えて20種程度はインターネットやJGP(Japan Grand Prix) 東京ドーム蘭展にて海外業者から入手できます。それ以上の種と、その変種の収集となれば上記それぞれの国毎の業者に打診することになります。いずれも希少種を得るためには長い時間と運、またそれなりの費用を要します。変種を含めれば全体で100タイプを超えます。栽培業者とはすべて英語交渉であり日本語での取引はできません。

 原種のもっとも容易な入手方法は、JGP開催日に合わせ、前もって(出来れば3ヶ月程度前から)出展あるいは視察のために来日予定の業者とE-メールやFax等を通して収集依頼を行い、JGP展示会場で受け取るというものです。この方法は、それ以外の時期に国際郵便EMS、DHLあるいはFedEXを用いて海外から発送してもらうことに比べれば少数の注文ができ、目で確認をした上で株を受け取ることができる点で安心です。

 一方、直接の空輸注文は、1回の最低注文量(500-1,000ドル程度)が通常設けられています。筆者の経験実績では、CITES申請を通し胡蝶蘭原種を日本に輸出できる信頼のある東南アジアのナーセリは3社ほどとなります。

 栽培業者への注文までの手順としては、インターネット・サイトにある「問い合わせ」によるカタログ請求、あるいはJGPにて名刺を受取った場合はE-メールにてカタログリストを依頼します。カタログから入手希望種の在庫の有無や、カタログにない品種を求める場合は、さらに打診して見積もりを待ちます。見積もりが来れば注文品の決定と注文個数(すべてEメールで可)、送付先住所、搬送手段(EMSなど)を知らせ、栽培業者からの送り状案(Pro-forma Invoice)を待ちます。このInvoiceには品種、個数、価格、発送手段また輸入元と受取人住所などが記載されています。費用は蘭自身の価格以外に下記が加わります。

(1) CITES申請費用
(2) Phytosanitary(植物検疫費用)
(3) Shipping & Handling(輸送・梱包費)
(4) Tax(輸出国税。商品に含める業者もいる)

 通常(2)(4)は植物の価格に含まれ、(1)のCITESも含めるところと別途請求のラン園とまちまちです。(3)の費用は株数やサイズで変動します。これらの間接費用は少数注文であれば植物全体価格の2-2.5割程度を占めます。輸送費はパッケージの大きさ、重さ、EMSやFedEXで1パッケージ当たり5,000円から30,000円の範囲で異なります。すべて米国ドル建てとなっています。

 Invoiceに問題がなければ、銀行に行き、海外送金用紙で電信振込み(T/T)で送金を行います。送金先はInvoiceに記載されているか、Eメールで送られてきますので、これを(銀行名、銀行住所、口座番号、口座名、最近では受取人住所も記入)用紙に書くだけです。T/T送金手数料は高額で、10-20万円程の購入額に対しては7,000円程度かかります。2007年度より銀行ではCITES品は原産国が尋ねられます。JGP会場での直接の受け渡しを除けば、前金支払いとなります。但し前金を要求されても、してはならない業者(後述)もいることを知らなければなりません。送金が終われば、送金手続きが完了したことを一応Eメールにて業者に知らせます。

 送金から出荷までの期間は2週間から2ヶ月と、国や業者によってかなりの幅があります。出荷予定日がかなり遅れることもあります。商品が生き物である以上、特に多数を注文している場合は、農園での採取から梱包までの過程で不良品がでることも考えられます。すぐに代替えを調達できない場合があるかも知れません。またジョークのように言われますが、それぞれの国には国固有の時間感覚(インドネシア時間やフィリピン時間というもの)があります。これは業者自身に原因があるのではなく、それぞれの国の社会インフラに依存する問題で、日本でのビジネ感覚でスケジュール厳守を期待するのも間違いです。

 搬送は通常EMS(国際郵便小包)が使われますが、EMSであれば成田到着後は国内郵便局が引き継ぎ、自宅まで配達してくれます。よって、銀行でのT/Tの振込みが終われば、後は自宅に蘭が届くまで何もする必要がなく、ひたすら待つことになります。購入額により通関料と国内税を合わせて2‐5%がかかる場合があります。相手国からの出荷が決まれば、EMSのTracking NumberがE-mailで知らされるため、出荷時点から荷物の搬送状況が克明にインターネットを通してトラッキングできます。但しフィリピンの場合はフィリピン国内の運送状況は現在まだトラッキングできません。成田到着からとなります。通常東南アジアからは現地発送から5-6日程度、USAで6-7日です。通関検査は土・日曜および祭日は休みとなるため、この曜日を跨ぐと2-3日成田でストップしてしまいます。筆者は現地からの発送日は金曜日にするように業者に伝えています。これは、航空運送は休みがないようなので日曜日遅くか、月曜日の早朝に荷物が成田についているタイミングを考慮したものです。以上のように現地発送から到着までは時間があるため、鉢やコンポストなどの植え付け準備も発送通知を受けてから余裕をもって進められます。



3.EMSによる到着後のPackage(左)と、成田での検疫を通過しラベルが貼られた胡蝶蘭株



4.手荷物として直接輸入したPackage(左)。Packageの上の書類はCITESや検疫証明書などのコピー。
胡蝶蘭は1株づつ上の写真のように包まれるが、バンダは根が四方八方に張っているのでそのまま。 

 一方、2009年2月からEMS搬送に関して、20万円以上の購入や,購入価格が不明な輸入品に関しては一般貨物と同じ取り扱いとなり、輸入(納税)申告が必要になりました。この結果、これまでは通関料と消費税を代引きで自宅で支払うことが出来ましたが、検疫、税関検査後の荷物は、輸入申告と納税が完了するまで一旦郵便事業会社の東京国際支店に保管、据え置かれます。輸入申告のプロセスは、まず郵便事業会社から納税通知が速達郵送で送られて来ます。これに同封された通関手続き方法を指定する書類と、通関委任状に所定の記載をして返送します。その後、納付番号や収納機関コードと呼ばれる番号が再び送られてきます。その番号を用いてATM等で納付を行うことで税関をパスする仕組みとなっています。この一連の、行ったり来たりの手続きを郵送で行っていれば1週間を要してしまいます。幸いに受取人と郵便事業部とはFaxや E-mailを使用した書類の転送ができることと、納付したことを知らせる電話連絡で若干手続きが早まることから、保管は最短3日程度に抑えられます。しかし休日が挟めばそれ以上の日時を要してしまいます。すなわち現地発送から起算して2週間近く段ボール箱に梱包されたままの搬送となり、胡蝶蘭を搬送する時間としては無理があります。4-5日で荷物を得るための解決方法としては、代引きが可能な通関業者に納税を含め代行を依頼するか、20万円以下となるようにドキュメント(CITESや検疫書類)を分離し、別々の荷物として発送を依頼するか、本人が直接税関に出向き支払いをして受け取るかの方法しかありません。

 日本への輸入はミズゴケによるポット植えの状態でも可能ですが、USAの輸出入規定から東南アジアのナーセリでは、ベアルート(コンポストを着けないで根をむき出した状態)での搬送出荷準備が一般化しており、また病虫害による葉の整理や消毒などがベアールートにしてから行われています。このため、海外からの輸入はどの属や種であっても、移植の難しいものは株毎の梱包方法、例えば地生蘭では固く絞ったミズゴケを根に巻きアルミホイール等でその部分を包む、胡蝶蘭ではスプレー後あるいは数分間水に浸けた後に自然乾燥させ、その後新聞紙で包むことなど、それぞれの取り扱いを指定したり、また大株の方が体力があり移植(順化)に失敗しないため、可能な限り大株を購入します。関東以北で冬に東南アジアから輸入する場合は、発泡スチロールなどの箱あるいは新聞紙を通常以上に重ねて梱包するように指示します。

 胡蝶蘭で重要な点は、株1点毎に新聞紙等で包むことで、これは2つの重要な目的があります。一つは輸送過程で発生する病気感染の防止、二つ目は断熱効果です。根にミズゴケを巻く業者もいますが、胡蝶蘭では何も巻かずそのままの方が良い結果が得られます。霧を吹いてから自然乾燥後、新聞紙で包むことになります。できれば規定希釈のストレプトマイシン系の薬剤を霧吹きしてから梱包してもらうのがベストですが、台湾、USA,シンガポール以外は薬剤散布後の梱包は無理と思われます。 

 特に問題なのは胡蝶蘭に限りませんが、Vandaなどを含め根を短くカットして出荷整理が行われ、これが日本に入荷した後は環境が現地とは異なるため、順化までに時間がかかることです。場合によってはこのために順化に失敗することもしばしばです。根は多少梱包サイズが大きくなり搬送コストを上がっても、極力切らないことを指示することが非常に重要となります。このようなバイヤーからの要求に対しては大半のナーセリーは答えてくれます。しかしEMSなど標準的なパッケージがあり、これを超える大きな株では根(Vandaなどは茎を含む)が切られてしまうため、このような場合は現地からのハンドキャリー以外難しい問題です。

 海外からの購入には業者に関する信頼性の問題があります。筆者は2008年フィリピン業者(Lady-Let-Orchids)から詐欺にあっています。T/T送金後も「来週送る」の繰り返しでまったく送られてこず、フィリピンの友人に直接コンタクトを取ってもらい、追加注文することで半年後現地でやっと手に入れました。しかし高額な変種はすべて普通種であることが数か月経過した開花後に分かり、数十万円の損失となりました。その言い訳はその株を納品した1次業者が悪く、自分には責任がない。自分も被害者であるの一点張りで差額分の返金の意思は全くありません。常識では考えられない弁明ですが、2009 年に入って「orchids mall」のサイトからこの業者の名前が消えました。その2年ほど前から資金繰りが悪化し、売れるものならば嘘をついてでも売るという行為に変わったようです。蘭の掲示板をみたところ、筆者だけでなく各国で被害が出ていることが分かりました。聞くところによると、この業者と同族の噂の良くない蘭園が他に2社ほどあるとのことです。

 海外業者との取引を始める際、T/Tの銀行書類に必要な口座名義者の住所欄がありますが、これを教えないとか、銀行での電信送金ではなく、現金送金(Western Union Money Transfer)を強く要求してきた場合は問題がある業者と見なし、例え入手したい原種があったとしても取引を止めるべきです。クレーム処理で逃げているか、税金を払えないほど財政難にあると考えたほうが安全です。支払いをしても注文品を受け取れる保証がありません。

 海外取引においては、非常に安い価格業者であることと、信頼性あるいは品質とは往々にして相反します。海外旅行や蘭展で現地価格で販売する海外のラン園が見つかり、また彼らも海外取引経験が浅いこともあって驚くほどの安価で蘭が手に入ることがあります。しかし、このような業者と個人が直輸入の取引を行うのは、これから経験するであろうリスクをどの程度受け入れられるか(許容するか)の覚悟がなければ後々の問題となります。筆者の経験で言えば、梱包方法から病害虫防除に用いる薬品、蘭ごとの根の処理方法など様々な点で、これまで業者と交渉を行ってきましたが、裏を返せば、そのような交渉をせざるを得ないこと自体、それまでに多くの損失を出してきたことを意味しているのです。

 このようなリスクを避けるには、初めての業者については前金払いは行わず、もし現地に知人がいるのであればEMS送付と同時に現地で清算を代行してもらうか、少なくとも半額前払い、残り半額はEMS送付後(トラッキング番号通知後)に清算する交渉が必要です。他の方法としては、ラン愛好会等の海外取引経験者にアドバイス(業者選定)を受けるか、その経験者に一筆、業者あてにメールを頼み、その与信力で半額2回払いを認めさせるか、年1回の機会ですがJGP蘭展を利用することが、Face to Faceの取引ができ、また目視検査で不良品を返すことも出来る点で最善と思われます。英会話に不得手な人もJGPであれば、通訳がそれぞれのブースに就いていますので名刺交換等もできます。

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旅行先からの持ち帰り

 東南アジアへの旅行ついでに園芸店でランを購入し、そのままハンドキャリーで持ち帰ることはできません。持ち帰るためには、前記したように人工培養したことが明らに証明できる(例えば培地に植えつけられフラスコに入っている)苗であり、インボイス(種名、個数、価格、販売者と購買者の住所・氏名が書かれた送り状。この送り状は国内入管時の税を決定するために用いる)、Packaging リストおよび植物検疫証明書を用意できれば可能です。いずれもこれらの書類は業者が作成するものです。フラスコには植物検疫証明書が不要と書かれたサイトを見たことがありますが、下記の税関への2008年度末の問い合わせでは必要との回答でした。

 一方、フラスコ苗でなければ前記書類に加えてCITES許可書が必要であり、現地の園芸店ではこれらを2-3日で用意することはできないことと、一般の園芸店の店主が果たして、これら書類の申請経験をもっているのかも疑問です。書類が用意できなければ植物は輸出あるいは輸入段階で没収されてしまいます。購入した株が見た目にも虫食いや病痕もなく、また店主も山採りではなく栽培品と言っているのであるから問題はない筈と主張しても書類(店主の一筆は不可)がなければ通りません。輸出あるいは輸入窓口では植物の状態を問題にするのではなく、書類の有無を前提にチェックしていると考えるべきです。

 すなわち明らかに栽培品であり、前記a,bの条件を満たしたCITES申請免除相当品であっても、フラスコ以外の苗の状態では販売元が関係所管に栽培品であることの証明手続きをして得た品種ごとの輸出許可書やインボイス等がなければ特に付属書Iの輸入は困難で、必要な書類や申請方法を前もって確認しておくべきと思われます。日本での相談窓口は下記(2008年5月現在)となっています。

 農水産室 03-3501-1511(内線2731) CITESに関する問題
 成田税関相談室 0476-32-6020 入管での必要書類
 植物検疫係 0476-32-6690 植物検疫に関する問題

 以上のことから、通常旅行先から胡蝶蘭のようにCITES対象植物を持ち帰る場合は、その国の書類申請経験のある業者に予め必要な品種を注文しておき、前記CITESとインボイスを前もって用意させ、帰国する前日に植物検疫を済ませるように依頼し、梱包シール(検疫完了でシールされる)した荷物および関係書類をホテルあるいは空港で受取り、出国時、空港内の植物検疫所にまず持って行き、ここで係官から書類にサインをもらった後、一般荷物としてこれを持ち帰ることになります。国内到着時には、まず植物検疫カウンターで1品種ごとにPackagingリストやCITES書類と比較しながら検査が行われます。それが済むと税関に移動し、CITES書類とインボイスがチェックされ、通関料と税金を払って入国完了となります。海外業者に対して、このような注文を国内から指示した経験がなければ、同好会などの経験者に段取りや国ごとの情報を教えてもらう方法が考えられます。

 一方、蘭のようなCITES許可対象でない植物であっても、原種である場合は輸出規定が設けられている国があります。例えばフィリピンではDENR(Department of Environment and Natural Resources)輸出許可が必要です。この結果、野生種であるかぎり、通常は数週間の輸出許可申請から認可までの期間が必要となり、旅行ついでにこれらを購入することはできません。

 国によって植物検疫が認可された(出荷消毒の代行)ナーセリがあります。これらナーセリでは梱包と同時に業者自身でシールを貼ります。この場合、ナーセリは関係機関に検疫証明書へのサインを求め、この書類をパッケージに添付してくれます。これらナーセリでは出荷の際に全ての植物の病害虫防除処理が行われますが、見ていると、病気痕のある葉や根の整理と、株を大きな薬品の入った容器で洗濯物のように次々と洗うためウイルス感染が心配でハラハラします。気になる場合は流水で汚れを落とした後、薬品を個々の株にスプレーするように指示するしかありません。シールが貼られたパッケージは出国の際、空港の検疫カウンターに一度もって行き、担当官のCITES、植物検疫の書類の確認後、植物検疫書類にサインをもらい(書類に目を通すだけの場合もあり)、その後は一般荷物として搭乗航空機会社のチエックインカウンターに預けます。

 前記したように海外からランを直接持ち帰る場合、CITES、植物検疫書、インボイスおよび(パッケージングリスト)が必要となりますが、筆者の経験で、現地で受け取った書類が原本のみで、それらのコピーがなかったため、コピーがないとの理由で輸出国の検疫カウンターで1時間以上も待たされ、チェックインカウンターの荷物受取時間までに15分しかなかったことや、日本の税関ではCITESの2枚綴りの書類の2枚目に、同一属名の続き番号であったため、CITES分類のAppendix II(A)が書かれていないとのクレームがつき、口論(CITES書類のフォーマットに関してはCITES委員会等が決めたことであり、その内容は輸出国のCITES担当者が承認したもので筆者の知ることではないと反論)となり、税関の責任者を呼んで決着したことなどもあります。後で考えてみれば滑稽なやりとりですが、現場では互いに真剣そのものです。重要な点は、上記それぞれ異なる書類に記載された株(株に付けられた名前)と個数がそれぞれ一致することでミスは許されません。過剰分は没収されます。業者に厳密に員数をチェックするように申し渡しすることが必要です。たわいないことですが、ラベルが剥がれ緩衝材に入り込んで見つからない場合や、大株で輸送の段階で株が離れ複数になり、数が合わないことも考えられます。このようなトラブルは起こり得ることとして臨機応変に税関で説明する以外ありません。

 インターネット上や国際蘭展等に紹介・出品している業者であれば、CITES等の書類作成や申請は経験があり問題なく対応してもらえます。またもし現地で気に入ったものが(他店で購入したものを含め)あれば、それを業者に預け、一括してCITES申請してもらい、後日EMSで送ってもらう方法もあります。当然のことですが、旅行者が生息地で直接採取したものや、CITES付属書Iに含まれる原種の持ち込みは違法です。



5.現地の即売所。このような販売店で買ったものを直接持ち帰ることはできない。購入した後、ナーセリにCITES申請を依頼し、後日、EMSで送ってもらう。

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現地買い付け

 海外からの個人の直接購入は一般に500-1,000ドル以上の注文が条件とされます。5万円以上をまとめて購入する(1株を平均1,000円として50株)場合は国内価格に比べ約1/3であることを考えればメリットがあります。この場合は順化技術とそのための栽培環境が購入者側に必要となります。一方、ホモジェニアス(純正)な原種を求めると同時に、15-20万円程度のまとめ買いを行う場合は、直接現地へ出向く旅費を考慮しても購入費は同株数の国内価格と比べて安くなります。この場合株は、ハンドキャリーで持ち帰るため2-3日程度の梱包状態となり順化は比較的容易となります。

 海外の直接買付のメリットは、趣味家にとって費用以上に、現地の複数のナーセリを視察し、多数の株の中から選別したものが購入できることです。国にも依りますが趣味家が貴重と見なす品種に対する視点と、ナーセリが考える視点とは筆者の過去の経験から多少異なるように感じらまれます。例えばP. fasciataは、一般的な種では黄色をベースに赤褐色の線状斑点がランダムに花被片に入っています。100鉢以上吊り下げられた棚には、稀に緑色の強いベースのものや、ほとんど斑点がないものがあります。趣味家にとっては宝を見つけたような気分になるのですが、他の一般種と同じ価格の8ドル(800円)程度で販売されています。ほとんど入手が困難なP. reichenbachianaも8ドルのP. fasciataに交じっています。おそらく変種として、ひと桁以上違うのではないかとナーセリに言いたくなるものです。もちろん言いませんが。これは胡蝶蘭だけでなくVandaやデンドロを始め、ほとんど全種に対してこのような状況が見られ、特にVanda原種の現地と日本国内の価格差は1/15-1/20であり、現地に出向く価値は大いにあると考えます(海外蘭園内の写真や詳細は会員ページに記載)。

 問題は言葉(英語)と現地での交通手段ですが、交通については、まず主ナーセリ業者を一つ決め、あらかじめいくらかの発注をしておきます。そうすれば、すべてこの業者が空港からナーセリ農園やホテルまで、また滞在中も車を用意してくれます。よって現地での交通費用はかかりませんし、業者の手配した車ですから第一に安全です。10-15万円を購入すると言うことはフィリピンやインドネシアでは半年以上の国民平均収入です。ナーセリにとっては最良の客であり、その程度のサービスは厭いません。

 一方、自由行動をしたい場合は現地のハイヤーを自分で頼むことになります。国内であらかじめ手配しておきます。インターネットから容易に検索ができます(旅先でハイヤーを手配するのは安全面から避けるべきです)。1日10時間以上、3日間ほど車と人を含めレンタルするのは高額と思われますが、このときほど日本と東南アジアとの価格の違いを実感することはありません。例えばフィリピンでは新車で運転手、ガソリン、高速道路代を含めて1日10時間で100-150ドルです。東南アジアには日本語をサポートするハイヤー会社が多く、日本語の通訳が必要な場合、これに1日当たり80ドルが加算されます(2010年6月現在)。車は数人同乗できますから、友人と一緒であれば一人当たりは同乗者数で割った値となり、3日ほど借り切っても一人当たり1万円程度となります。インドネシア、マレーシアは若干フィリピンより高くなりますが観光シーズン以外であれば大差はありません。

 現地で見つけたランは後日着のEMS発送を依頼すればよく、また他のナーセリで購入したランであっても主ナーセリ業者に預け、一緒にCITES申請と共にEMSで送ってもらう(2-3週間が必要)ことが可能です。他のナーセリで購入した株の検疫のための消毒やドキュメント(書類申請)代を主ナーセリに若干払う必要がありますが問題なく引き受けてくれます。

  2011年からはLCC (Low Cost Carrier) 航空が一般利用でき、まもなくフィリピンまで往復25,000円(通常は4-5万円程度)の格安航空チケットが提供されるそうです。これは東京・大阪間相当の旅費です。前記したように現地ではナーセリの提供する交通手段を用いて交通経費を極力押さえ、最低限安全性が確保できるホテルに宿泊することに心がければ、直接現地での購入であれば最低購入価格の条件はないため、例えば航空運賃やホテル代を含め、7-8万円ほどで50株ほどの胡蝶蘭が入手できます。体力に自信のある人であれば、直接海外に出向き、現地からハンドキャリーで持ち帰ることも一考すべき時代が来たように思われます。


6. 海外農園

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原種/野生種の価格

価格の設定

 原種の価格は、種や選別の有無によって異なります。世界市場を見据えた相場値、現地販売価格を基にしたドル建て価格、また日本人向け価格などがあります。残念なことに最後の日本人向け価格は東京ドーム蘭展での販売経験から日本人は高額で購入するという認識に起因しているのではと思われます。また、業者のなかにはインターネットを通して日本でのラン園の価格やネットオクション等の価格相場を調査しているふしもあります。品質やサイズが保証されれば価格が多少高くなっても止むを得ませんが、品質やサイズとは無関係に価格だけが一人歩きしているのも実情です。

 それぞれの国の価格の違いは、それぞれの国の一人当たりのGDPに比例するようです。フィリピン、インドネシア、マレーシア、台湾それぞれが日本の国民一人当たりのGDP4万ドルに対して1,000ドル、1,600ドル、5,000ドル、1万5,000ドル(2005-6年度)ですので、実態としてGDPを反映した商品価格が設定されるのは自然です。この結果、価格が安価な国はフィリピン、インドネシアであり、マレーシア、台湾と続きます。その国に自生していない種を販売するのであれば、それを自国あるいはGDPの高い国の方に価格をスライドして販売するのはビジネスとしては当然かもしれません。貧富の差の大きな国ではこのような単純な比較は難しいのですが、10ドル(1000円)の蘭をフィリピンやインドネシアで販売している場合、それらの国では国民の平均年収が15-20万円であり、一方日本は400万円ですから、現地では20倍の2万円相当の商品として販売していることになります。おそらく日本国内の園芸店で2万円の鑑賞植物を買う日本人はまずいないと思われます。このことからも海外ナーセリの外国向け販売価格は、その国の人たちから見れば途方もない価格をすでに設定していることになります。しかし周知のように10ドルで買えるような洋蘭は日本国内ではほとんどなく、多くの種類でそれらの国の半月から1か月分の給与に相当する価格で販売をしているのです。

 JGP東京ドーム蘭展での展示品の価格は展示会相場というのでしょうか、JGP常連のフィリピンの1業者は、現地の20倍以上の価格で販売していました。例えばP. philippinensisはBS株でも直輸入8ドル程度ですが、JGP2004では5,000円、JGP2007ではコルク着きで15,000円でした。またP. equestrisP. schillerianaは8−10ドル、すなわち800円から1,000円ほどでBSサイズの入手が可能です。これが3,000-5,000円となっています。直輸入であれば5株以上の胡蝶蘭が購入できる価格設定です。

 一方、変種に関しては業者との信頼関係が確立している場合は別として、写真等で花を確認をしてからの購入が必須となります。前記したようにWebサイトを持ちながら故意(詐欺)と思われる信頼性のない販売を行うナーセリがいます。蘭は通常、購入から開花までに1年近くかかり、またNBSサイズでは2年以上を必要とします。このため開花した後に注文と異なる種であることが分かっても1-2年後のクレームでは手遅れであり、また入荷条件の悪い株では2-3割は枯れることもあり、この分は正しかったのか、ミスラベルかあるいは詐欺かは闇の中となります。高額な変種であればかなりの売り切り得となります。騙されて(花が咲いてから判明)高額で購入した品種の弁償は国際間では期待できないと考えるべきです。支払が済んだ後の海外の対応ではごく一部の業者を除き、誠意を示したところは経験上ほとんどありません。

 一般の胡蝶蘭(50種のうち30種程度)は800−2,000円程度、山採り株のP. giganteaで10,000−15,000円程度が国際的価格相場であり、他の大半の種はこの間の価格帯に入ります。またJGP2007で実生花つきのP. giganteaが30,000円で台湾のナーセリーで売られていましたが、それが山採り株であれば花付きの相場価格と考えられますが、実生(台湾は実生)であれば5,000−10,000円相当が妥当なところです。JGP出店を1度でも経験した業者は、蘭展価格をその後の日本人向け価格とする傾向を感じます。このままではベテランの趣味家がJGPから離れれる(購入をしない)のは時間の問題となるでしょう。JGPは前記した方法での予約株の受取場として利用し、会場での一般購入はあくまで初心者のための場と考えた方が良いようです。このサイトでは「原種58種それぞれの生息地域、特徴、栽培法、価格」のページで全種の参考価格(国際相場価格)を公開しています。

 留意しなければならないのは、日本業者の価格についてです。一般的には現地価格の3‐5倍の値段が付けられています。栽培経験豊富な趣味家にとっては3倍は高額に感じられますが、ワーディアンケースや温室を利用していない栽培者に対しては3-5倍が高額であるとは言い切れません。輸入株の最も難しい問題は順化にあります(順化方法は「植え付け」のページに記載)。株が脱水状態で、無傷あるいは生きた根がほとんど無い状態から、新芽と根を出し健康な株に育てるには、それなりのノウハウと管理コストが必要です。直輸入株の専門的な順化技術、光熱費、一般管理費、歩留まりなどをそれぞれ考慮すると、3-5倍の設定は無理のないところです。言い換えれば趣味家が輸入株を順化し、開花株にまで育成する1-2年間のコストは、購入価格の3-5倍を上回るものと思われます。この点から国内価格が、例え現地価格で1,000円以下であっても、順化することなく輸入株が即売される右から左へのトレーダ株でない限り、3,000-5,000円は妥当な範囲と筆者は考えます。

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希少種価格

 蘭展会場の異常な価格設定は別にして、価格が標準から上回るのは次の4つの条件となります。

(1) 稀少野生種(現地ではすでに絶滅あるいは絶滅に近く繁殖難度の高いもの): 上限は無いが20万円前後
(2) 市場にない突然変異種: 上限はない
(3) 変種を含む選別種: 2‐3万円程度
(4) 大株: 通常サイズ価格の株数分x 1.5
(5) マザープラント(山採り株の元株): 分け株や実生の4-5倍 

 (4)の大株とはNBS/BSという定義ではなく、大株(複数株の群生)か否かです。品質が良いと価格に影響するのではないかとは考えない方が賢明と断言できます。品質と言う曖昧な表現を善意に解釈していると海外取り引きは後々の失望となります。また比較的安価な価格リストを作成しておき、注文段階で大株(この場合はBS)の在庫があり、リスト価格の2‐3倍の価格となるがどうかと提案してくる場合もあります。当初からカタログにサイズ別価格がない以上、これは高額販売の一手法です。本来価格リストは注意書きがない限りBSサイズであると解釈すべきです。その逆にサイズの明示がなく送られてきた株がフラスコから出して1年未満の子株であったなどもあります。サイズが不明なものはメールで確認すべきです。

 希少種に関しては、価格の相場はありません。特に変種の野生株が最も高価であり、たまたま業者が1株を入手しているいうものです。野生種がなぜ高価であるかは、交配親としての価値があるからです。実生(フラスコ苗)と異なり、その特徴が培養繁殖で固定できる可能性が高いことにあります。このような株の価格は、業者あるいは手放そうとする栽培(あるいは採集)者に業者が仲介して交渉を行い、その上で決定されることが大半です。野生種で選別種となると、10−20万円程度となります。これ以上の値段も聞きますが、それだけ高価であっても手に入れたいとする人は、前記した理由から、親株として実生の生産販売を目論む人(台湾に多いそうです)か、希少種のコレクターか、いずれにしても世間から見ればビジネスか、さもなければ狂気の世界に他なりません。3‐4年後の価格暴落(台湾等からの実生苗の出現)を待つほうが賢明です。

 同じ変種であっても実生株であれば価格は1/10程度(国内では最低価格が2,000-3,000円程度)となります。現在、例えば培養株ではなく、野生のP. bellina fm. coeruleaP. speciosa fm. christiana身近なところではP. equestris P. appendiculata albaなどは極めて高価であり、まず入手不可能と言えます。実生株と野生株では2,000-3,000円と10‐20万円の違いがあります。このため実生株でありながら野生株と称して販売する業者がいないとも限りません。


7. P. schillerianaの野生大株

 希少種は稀少と言うだけあって入手難であろうと思いがちですが価格が高い点は変わりませんが、海外栽培業者とのビジネスを日ごろから頻繁にしていると意外とそうでもありません。所有者が実生あるいはメリクロンに成功すれば、親株を高価で販売できるうちに手放そうとするからです。言い換えれば希少種が手に入ったということは、2-3年後にはその数10分の1程度の価格となる2,000-3,000円で多数の株が世界中に出回ることを意味します。

 また、現地住人が発見した新種とのふれこみで見知らぬ蘭の連絡が来ることがあります。発見者、場所、採取状況が明示されない限り購入すべきではないと考えます。もしそれが本当に新種(ほとんどは作為的な交配種と思われる)であれば現地人であれトレーダーであれ、相応の機関に分類を依頼する筈です。永久に自分の名前が蘭名として残る発見者の名誉になるにもかかわらず、それをしないというのは疑わしいという推測からです。

 いずれにしても海外取引を行う場合は経験者のアドバイスを受けることが有効であり、本サイトでは会員制を設けて、海外蘭園の情報や取引方法また交渉のアドバイスや代行などを行っています。このようなメンバー間での価格や業者情報を交換することが最も安全と思われます。

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購入の一方法

 直輸入による購入の最大のメリットは、国内で1株分の価格で数株購入できることにあります。同一種を3-4株栽培すれば、開花が難かしい種であっても、かなりの確率でその中のいくつかが1年以内に花茎をつけることがあります。一部の種を除いて、開花は年1回であり、同じBSサイズであっても初花を見るのに1-2年のバラツキがでます。このため早く花を得たい場合は、複数の同一種を購入するのが近道です。また複数の購入は、しばしば花の色やパターンが異なるものが得られます。インドネシアのある業者では、同一種を複数注文すると、花柄の異なる株をあえて選別し発送してくれているのではないかと思われることがあります。このように国内の1株分の価格で、それぞれ異なる種を3-4株購入するのではなく、同一種を3-4株手に入れることも、また違った余裕と楽しみとなります。さらなるメリットは、その種に対してコンポストが確立していない場合は、複数の株を別々のコンポストに植え付けて成長をチェックし、最も良いものに1年後統一するなどの手段もあります。

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直輸入の問題点

搬入状態

 胡蝶蘭を海外から直接輸入する課題は、輸入株の状態の悪さにあります。台湾やUSAを除き、現地では多くが野外栽培品であり、品質管理が十分とは言いがたいため、前記したCITESの条件に書かれた状態「不均一な成長状態又は異なる大きさと形状、葉に付着した藻類又はその他の葉上生物、又は昆虫その他の有害動物による損傷など、野生から採集されたことを示す徴候」で送られる場合が少なくありません。ベアールートが輸出の条件であるため注文株は支持体から離され、入荷するまでの期間で脱水状態が続き、ひどい場合は根は無いに等しく相当弱体化します。東南アジアからの原種の輸入は胡蝶蘭に限らず、バルボフィラム、デンドロ、セロジネ全てに言えることです。言い換えれば原種の輸入にはそれだけのリスクと順化技術が必要です。

 輸出入国それぞれで検疫が行われることから、生きた害虫が付着したまま入荷されることはまずありません。しかし葉は、自然環境の中で発生した斑点病、葉先枯れ病、炭そ病等の病痕(切り取った痕を含め)が、またハダニやナメクジの被害と明らかに分かる傷跡が多数見受けられます。根はさらにひどく、着生していた支持体から無理やり毟り取った痕、ほとんどの根が水分不足でカラカラ状態と言ったことが珍しくありません。国内で2-3年間栽培された病跡のない葉や、国内販売の交雑種に通常見られる多数の若い太った根冠(根の先端)を期待することはまずできません。これら全てが新しい葉に生え変わるには3-4年が必要です。海外の蘭友ネットの掲示板で株の品質について「この業者からは2度と買わない!」と言った怒りをしばしば目にしますが、原種の購入には相応の覚悟が必要です。

 輸入種の品質が良いか悪いかは、取引業者がトレーダーか栽培者であるかの違いとなります。現地の業者であっても山採り株を僅かなストック期間で販売するトレーダーが多数を占めます。この方が手間がかからないからです。そのため価格も栽培業者よりは安く、つい趣味家はその業者に関心を向けますが、これらトレーダーからの株の品質は極めて悪く、よほどのベテランでもない限り価格が安くても購入を控えるべきです。


8.山採り株の葉

 USAや台湾からの輸入品はフラスコからの実生苗となるためNBSが一般的ですが品質は安定しています。それは前記したようにトレーダーではなく栽培者が多いためです。その代り個体間の成長のバラツキが多い印象を受けます。すなわち、野生種の場合は一旦順化すれば、すでにそれまでに自然競争のなかで淘汰・成長してきた株であり強健で順当に育ちます。フラスコ苗で経験を持たれている趣味家は周知と思いますが、実生株では、ひときわ成長の早いものや反面、ひ弱な株が出てしまいます。生産者が成長の早いもののみを選択し販売しているとは限らないようです。

 本来水分多汁で厚みのある葉であるべき株が、しばしば葉が巻けてしまうほど柔らかで薄い(脱水)状態となって入荷されます。一説によると、輸出する場合、沢山の株を段ボール箱に詰めるため撓ることのできない固く厚い葉や根では折れたり傷ついたりし、そこから病気に侵され易くなるため、脱水状態にして葉や根を柔らかくしてから出荷するということを聞いたことがあります。真偽のほどは分かりません。しかしこのような弱った状態で入荷した場合の植え付けと潅水は、相当な注意が必要となります。細菌性の病気に罹る可能性が極めて高いと言えます。輸入原種を始めようとする趣味家は、病害虫予防の知識と、脱水状態からの順化に自信がある場合に限って海外取引を行うべきと考えます。

 写真9はP. modestaの輸入4ヶ月後の状態(左)と、3年後の状態(右)のものです。写真左の株は植え付け時は薄い葉3枚と、1‐2cmの長さの乾燥した根が2‐3本程度着いた状態で入荷し、その根を僅かなミズゴケでまいて、ヘゴに取り付けたものです。輸入後4か月が経過し、葉に若干の張りが出来、新しい小さな葉が1枚展開しているものの、入荷時の葉は垂れ下がったままです。3年程度経てば、右写真(個体は違うものです)のように大半の葉は生え換わり、茎は水平方向に伸び、葉は左右に展開しながら面を真上にして伸長します。右写真では10個以上の蕾を付けています。左右が同一種とは思えない変化となります。


9.輸入時と温室3年栽培後のP. modestaの葉成長状態

  一方入荷時点で、すでに細菌性の病気に侵された株が補償されるかどうかという問題があります。通常、開封時点での不良品は、受取人には責任がない訳ですから、写真を撮りEメールに添付して知らせれば同種株を再発送するのが当然です。USAでは代金の一部返金がありますが、東南アジアや台湾で返金あるいは再発送を受け入れる業者は、取引実績があれば別ですが、皆無と考えたほうが良いと思います。

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入手難易度

 表1に種別の入手難易度を示します。表において、「容易」は現地ナーセリのカタログリストに一般的に記載されているもの、「普通」はネットなどで検索すれば得られる可能性の高いもの、「難」は限られたナーセリか、カタログにはなく特別に注文しなければ入手困難なもの、「極難」は入手が極めて困難なものを、それぞれ表します。容易なものから極難のいずれも、変種とされるものは入手は困難で偶然に得られるものと考えるべきです。

表1. 入手難易度
難易度
備考
amabilis 容易
変種による
amboinensis 普通
変種による。flavaは難
aphrodite 容易
appendiculata
albaは極難
bastianii 普通
bellina 容易
変種による。coeruleaやalbaは難
borneensis
braceana
celebensis 容易
chibae 普通
やや難
cochlearis
corningiana 普通
cornu-cervi 容易
delicata
deliciosa 普通
doweryensis
equestris normal type
alba
aurea
容易
やや難

リップ青は難


fasciata 容易
fimbriata 普通
低地産は難
floresensis 普通
fuscata 普通
gibbosa 普通
gigantea 普通
高価であるが入手は容易
hainanensis
hieroglyphica 容易
honghenensis
inscriptiosinensis
javanica
kunstleri
本物が少ない。fuscataが入荷
lamelligera
lindenii 普通
lobbii 普通
lowii 普通
lueddemanniana 容易
変種による
maculata 普通
mannii 普通
変種による。flavaは難
mariae 普通
micholitzii
minus 普通
modesta 普通
pallens 容易
pantherina 普通
parishii 容易
philippinense 普通
pulchra 普通
reichenbachiana
sanderiana 普通
dark pinkは難
schilleriana 容易
dark pinkは難
speciosa 極難
stobartiana
stuartiana 容易
変種による
sumatrana 容易
tetraspis 容易
斑点タイプは普通
venosa 普通
violacea 容易
viridis 普通
wilsonii
zebrina 普通

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ラベルミス

 故意ではなく不可避と思われるラベル・ミス(品名間違い)の入荷が時折発生します。これはビジネスの仕組み上、トレーダーに多く見られます。花の確認ができない入荷時期の業者にとっては、1次業者(オーキッドハンター)が命名した名そのままか、その時点の葉や根の形態で種別判断することになり種名の間違いが起こります。一方、オーキッドハンターのストック場ではほとんどの株にラベルが貼られてはいません(会員ページに掲載しています)。この結果、一定量のミスラベルは避けられないものと思われます。問題は変種と銘をうって高額にし、普通種を平然と販売する業者がいることです。1年後に開花しなければ分からない、あるいは枯らしてしまえばクレームがないとの思惑からか、残念ながらビジネス倫理よりも儲けを優先する業者も見られます。

 ラベルミスは、次の発注取引で補償するのが原則ですが、商品が生き物である以上、確実に同一種が業者の手元に残っているとは限りませんし、発送許可書などドキュメント類の作成と輸送金額を考えれば、果たして実行できるかどうかの問題もあります。1株であっても相手側のミスである以上、補償をすべきであるとする考えは国内では当然ですが、それが海外(東南アジア)においても通用するか否かは難しいところです。つまり品種取り違えには補償がないと考えるべきで、余程高価な種については、トレーダーからは購入しないか、前記したように花や株の状態を確認(メールに画像添付でよい)してから購入すべきです。

 表2はこれまでの筆者に入荷した過去4年間のミスラベル品です。筆者はラベルミスや入荷状況(歩留まり)は全て業者に知らせます。交換は、次の発注が決まった場合にミスラベル品を一緒に送ってもらうよう要求はしますが当面注文がなければ相手業者に任せ、特に再送の要求はしません。別の見方をすれば、ミスが異常に目立つ業者は管理能力や信頼性がないものとして取引を中止すべきかも知れません。

 ラベルミスには失望もありますが運が良い場合もあります。例えばP. amboinensisノーマルタイプを購入した株が2年後に開花したとき、ベース色が今まで写真でも見たことのない鮮やかな黄金色のyellowタイプでした。このことからも故意ではないことが分かります。もしラベルミス株が多く、しかもそれらが価格の低いものばかりだとすれば、間違いなくそれは詐欺に他なりません。また高価な価格が付けられた変種が変種でなかったという場合もミスではあり得ません。現地において、数万円もする高価な種を一般種と混在して栽培・管理することはあり得ないからです。

表2. ラベルミス例
ラベル 実体 輸入国
cochlearis
fuscata
Taiwan
deltonii
delicata
Taiwan
thalebanii
cornu-cervi (normal type)
Singapore
veitchiana
sanderiana
Philippines
intermedia
amabilis
Philippines
gibossa
parishii
Singapore
javanica f. alba
javanica (normal type)
Singapore
floresensis
amboinensis (normal type)
Singapore
fasciata
mariae
Malaysia
maculata
modesta
USA
fuscata
cochlearis
USA
hieroglyphica
bastianii
Philippines
amboinensis (normal)
amboinensis (yellow)
Singapore
pallens
reichenbachiana
Philippines
lueddemanniana
hieroglyphica
Philippines

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ウイルス病

 原種にはウイルス病が少ないとするのは誤りです。山採りであっても一時的に一箇所に集められて、しばらく栽培されている以上、現地でウイルスに感染する可能性があります。今までの経験からは過去5年で2度、輸入した蘭にウイルスCyMVを発見しました。これらは葉の様子に元気がなく、言われているモザイク模様はないものの、いつまでたっても元気がなく新芽がでて開花するが花の一部が縮れ歪むなどの症状があり、ウイルス検査の結果、陽性であることが分かりました。判明するまでに約半年が経過しました。また東南アジアからのP. equestris v. albaは2度に渡って購入した数株すべてにCyMVが見つかりました。2007年のJGPでもalbaタイプが売られていましたがポリポット入りにもかかわらず元気がなく、おそらくウイルスを持った親株の無菌培養による実生苗が東南アジアから台湾までかなり広範囲で広まっているのではないかと疑っています。

 一方、輸入株の中には、開封時は問題がない状態でありながら、植え付け後しばらくして、えそ病のような葉にまだらな濃淡や凹凸が現れ、やがて葉に細菌性やカビ系の病気が出て枯れ始めることがあります。これは恐らく、現地では環境が良いため株の体力が勝り、症状が現れないでいたものの、潜在的にウイルスを持っており出荷による根の切断や極度な乾燥で体力が弱まり、その結果発病したものと思われます。病虫害対策をしているにもかかわらず、局所的な炭そ病や細菌性症状ではなく、葉に筋状の濃淡が現れた場合はウイルスが原因と考え、直ちに隔離して様子を見ることと、濃淡部の葉肉が凹凸状態となればウイルスキットによる検疫が出来ない限り、ウイルスと断定し廃棄する必要があります。

 輸入種のグループは、それまでの蘭とは別の場所で隔離して栽培し、外見上健康そうであっても使用する器具(ピンセット、鋏類)はすべて1株ごとに携帯コンロ等で火炎殺菌する必要があります。ウイルスが発見されれば輸出元に報告します。またその報告に対してどのような対応を業者が行うかは、その業者のビジネスセンスが問われる問題です。顧客の期待に応えられない業者であれば、その後の取引は止めるべきと考えます。1例として胡蝶蘭ではありませんがL. anceptのUSAからの購入で、数点にCyMVを発見し、報告をしたところ同一種をUSA側でもすべてチェックし、業者側でも一部にCyMV見つかったため、報告の全品種でウイルスチェックしたウイルスフリー株を無償で送付してもらったことがあります。このような信頼のある業者であれば、その後の取引も安心です。

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